2014年2月25日火曜日

誤嚥事故をめぐる裁判例の現状~その2~

前回は、誤嚥事故に関する裁判について、概要と過失の整理についてまで見ていきました。今回は、過失の各段階における具体的内容について、見ていきたいと思います。

2.過失として、どのような要素が考慮されるのか
(1)前回、Ⅰ)~Ⅳ)として過失の認定段階を挙げましたが、近時の裁判例にも沿って、それらの具体的な内容を整理していきます。
Ⅰ)食事前の段階の対応
・本人の特性の把握(嚥下障害があるか、過去に誤嚥歴があるか、認知症の程度など)
・食事方法の選択(口から食べることが適切か)
・食事内容の選択(食材、調理方法が適切か)
 が主たる争点となります。
Ⅱ)食事中(誤嚥発生まで)の段階の対応
・食事の介助の方法(量や速さなど)
・嚥下状態の確認(飲み込んでいるか、口の中に食物が残っていないか)
・確認・監視の体制(これは、Ⅳとも重なります。)
 が主たる争点となります。
Ⅲ)誤嚥発生後の段階の対応
・誤嚥であると予見すること(気づくこと)(誤嚥歴等の把握の有無を前提とする)
・救命措置の内容(職員レベルでの対応、119番通報など)
 が主たる争点となります。
 特に、救命措置の内容としては、タッピング法やハイムリッヒ法といった措置の実施や吸引器の使用が問題となることが多いと思われます。
Ⅳ)施設等の体制
・人員や設備の状態
・職員への教育
 といった点が争点となります。

(2)以上を前提に、近時の裁判例について見ていきます。
○京都地方裁判所平成25年4月25日判決(判例秘書搭載)【肯定】
・マシャド・ジョセフ病による嚥下障害のある方の事例。食事は、とろみ食。
・難病による嚥下障害のある方の場合には、食事中に食べ物を口にしない状況があれば、誤嚥による呼吸困難を疑うべきであった。
・食事開始後1時間経過しながら、3割程度しか食べられていなかった事態を異常なものとして認識していなかったのは、特段の注意を怠ったものというべき。
→施設職員の過失を認定(上記Ⅰ~Ⅲの段階(特にⅢ)の問題と言えます。)
○水戸地方裁判所平成23年6月16日判決(判例時報2122号109頁【肯定】
・パーキンソン病による嚥下機能の低下のある方の事例。食事は、常食(刺身)。
・施設入所以降、客観的な状態として嚥下機能の低下やムセが存在したことは明らかであった
・本人に常食の希望があっても、認知症の進行している状況では、十分な判断能力を有していたとは言えず、常食を提供するという決定をすべきでなかった。
→安全配慮義務違反と過失の両方を認定(上記Ⅰの段階の問題と言えます。)
○東京地方裁判所立川支部平成22年12月8日判決(判タ1346号199頁)【否定】
・デイサービスにおける要介護5の方の事例。食事は、常食。
・常食を提供することについて、嚥下障害の診断や申し送りはなく、過失はない。
・食事は、高齢者用のものを専門業者から取り寄せており、さらに調整をしている。
・食事前の段階で、個別機能訓練・口腔機能訓練(嚥下体操)を実施している。
・職員は、食事中の利用者らを2人以上で見まわっており、本人に異常が発生した時点で、職員が直ちに声掛け、入れ歯除去、口腔内の異物の除去を試みている。
さらに、その場でタッピング、ハイムリッヒ法も実施。続いて、吸引、人工呼吸を実施。並行して、救急通報を行っている。
・なお、職員の人員配置(人数)も不十分とは言えない。
→かかる事情の下では、職員及び施設の過失は認定できない
(これは、Ⅰ~Ⅳの全ての段階が争われた事例と言えますが、対応に問題はなかったと判断されたものです。)
実際の事例では、こういった形で過失の有無が争われるわけです。

次回は、損害として、具体的にどのようなものが認められているかについて、見ていきたいと思います。(上杉謙二郎)

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