2011年4月4日月曜日

敷引契約の有効性

消費者契約法が施行後、マンション等の賃貸借契約でこれまで当たり前とされてきたことについて、法的な見直しを迫る裁判例が相次いでいます。明渡にあたっての原状回復の費用を全て借主に負担させ敷金から引いていいのかどうか、契約更新のたびに家主は更新料を請求できるものなのか、等々。
今般、関西地方を中心に居室の賃貸借契約で慣行的に行われてきた敷引契約(明渡時に、明渡までの賃貸期間に応じて一定金額を保証金から当然控除し、その代わり通常の使用や経年によって自然に生じる損耗については、借主は原状回復を要しないという特約)について、最高裁の判決がでました(H23.3.24最判)。敷引契約が消費者契約法10条に反して、消費者である借主の利益を一方的に害するものではないか、という問題意識から訴訟が提起され、高等裁判所段階では、無効なのかどうか判断が分かれていました。最高裁は、一律に無効とはせず、補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金、更新料等の一時金の授受の有無やその金額を判断要素として、敷引金が高額にすぎるときは、賃料の近隣相場と比較して、大幅に低額である等の特別の事情がない限りは、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条により無効となるという判断を示しました。問題の事例では、敷引の金額が、2倍弱ないし3.5倍強にとどまり、更新料として更新時に1ヶ月分の負担があるほかは礼金等の支払義務がないことを理由に、敷引の金額が、「高額に過ぎる」ものではなく、無効であるとはいえないとしています。
判断材料は一応示されているものの「高額に過ぎる」という評価を含む判断基準なので、どの辺りまでが限界なのかははっきりとはしませんが、当該事例での上記の判断の仕方をみると、無効となる余地は残しているものの、敷引契約が無効となるのはかなり限られた事例であると思われます。(N)

フレッシュマン採用で、「試用期間」の位置づけにご注意を

4月は新しい職場のメンバーを迎える季節です。新卒者についても中途採用の若手社員についても、時に「就業規則の定める試用期間の定めに従って採用したが解雇したい」という相談がなされることがあります。採用された側からすると、「正社員で入社はずなのに解雇された」という言い分になります。
労働政策研究・研修機構の調査では、試用期間を定めている企業は73.2%にのぼります。また、本採用の拒否事案はその調査の過去5年間内では、13.1%あるそうです。
試用期間については、有名な最高裁判決(昭和48.12.12の三菱樹脂事件判決)があります。その判断では、試用期間中に使用者に留保された解約権の行使、つまり解雇は、通常の解雇の場合より、広い範囲における解雇の自由が認められる、とは述べているのですが、「採否決定の当初においては適格性の有無に関連する事項(資質・性格・能力等)について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に収集することができないために、後日における調査や観察に基づく最終的な決定を留保する」ものだと述べていることが重要な点です。つまり、あくまで、試用期間中の調査結果や勤務状態により新たに認識した事実を根拠とすると客観的に合理的な理由があって、社会通念上も相当と考えられることが必要なのです。
通例、試用期間は2ヶ月から半年くらい。試用期間といえども労働契約は有効です。企業側は、試用期間を商品サンプルのお試し期間のように安易に考えないでほしいものです。また、新入社員側は、正社員になるために学びながら適性をアピールする期間ととらえて、臨んでいただきたいものです。<K>