2012年12月13日木曜日

誤嚥事故は避けられないが・・ 事故が起きた時の対応を判例から考える


4人に1人が65歳以上の高齢者となる時代、75歳以上の後期高齢者と呼ばれる年代層も増加しています。有料老人ホームや特別養護老人ホームはもとより、自宅から通うデイサービスなどでも、食事提供が行われています。咀嚼能力の低下が伴う利用者には、誤嚥事故のリスクが伴います。

誤嚥事故を防止するためには、

①事前には、入所やサービス利用契約時の情報収集(利用者からは情報提供)が欠かせませんし、具体的な支援計画や日々の体調管理、チェックが欠かせません。

②食事時には、まず、提供する食事の内容、提供される食材の選択という行為それ自体の適切さが問われます。通常食でよいのか、ミキサー食、ソフト食といったものが適しているのか。しかし、通常食からの切り替えには、本人の精神的なショックも伴うので、説明や了解も必要です。

判例では、長さ2センチ、幅5ミリのかまぼこ片を詰まらせた事例、こんにゃく1センチ大、はんぺん数片を詰まらせ死亡した例で、施設側の責任を認め賠償を認めたケースがあります。

通常食の提供がそれまでの本人の状況に照らして問題がなかった事例、たとえば、嚥下体操を励行していたり、通常は自力で食事が可能であった事案などでは、責任が否定されています。

加えて、食事時のみまもり体制や介助の職員体制などが問われます。

③事故時、誤嚥が発生した場合に責任が肯定されている事例を複数比較してみると、事故発生後直ちに、タッピングやハイムリックなどの方法で誤嚥物の排出除去を試みたり、吸引して取り除くように努めることはもとより、改善されない状況にあれば、直ちに、救急搬送体制をとることが求められているといえます。

その時の5分、10分の遅れが、死に至らせることがあるという危機意識や咄嗟の判断を求めている最近の判例がいくつか見られます(東京地裁平成19年5月28日判決など)。

 

高齢者は持病を持っている場合もあり、死亡に至る機序が争われることもあります。もっとも、要介護度が4、5といった高さにあることで、直ちに事故の責任が重くなるのではありません。

アルツハイマー認知症にり患し、大量にほおばる癖があった要介護4の高齢者(85歳)が自力で通常食を食べていたケースでは、介護体制、搬送体制等に問題はないと判断されています(東京地裁平成22年7月28日判決)。パーキンソン症候群で要介護5の81歳の高齢者が業者から取り寄せた通常食で死亡したケースでは、いつもどおりに嚥下体操を行い、利用者23名に対して職員5名で見守っていたところ、しゃっくり、痙攣、震えを起こし、その場でタッピングなどを施し、併行して救急車の出動を要請して対応し、賠償責任は否定されています(東京地裁平成22年12月8日判決)。

 

施設側としては、高齢者のケアを引き受けるというからには、誤嚥事故の発生のリスクを潜在的に抱えているのですから、支援計画、日頃の体調管理を十分にして、情報を職員全員で共有し、連絡体制を万全にして、安全配慮義務を尽くすように心がけることが重要です。情報を共有するためには、介護日誌、看護日誌の記載、連絡メモなどを整備しておくことがポイントであると思います。

そして、食事の際には、頸部を前屈しているか、嚥下動作に異常はないかなど、ポイントを突いた観察が事故を防止できるかどうかを左右します。ルーチンに行われるようにすること、日常からの体制作りが大事ということを判例は示していると思います。
K

2012年11月9日金曜日

労働者派遣法の改正でどう変わるの?

 平成20年のころ202万人であった派遣労働者数は、23年6月には137万人になるなど減少傾向にあり、派遣事業の売り上げも平成20年の7.8兆円から22年には5.3兆円に減少しました

昭和60年に制定された労働者派遣法は、企業や労働者の多様な働き方に対するニーズもあって、昭和60年以降、適用対象業務の自由化がはかられた時期もありましたが、さまざまな問題が浮上して、平成20年以降検討がなされ、24年春に制定、公布された今回の改正法は24101日から施行されました。

その改正点を紹介します。


1 日雇い派遣の原則禁止 

 原則禁止されたのは、日雇い派遣であり、直接雇用による日雇い就労は禁止されていません。

日雇い派遣の例外となる業務があります。

専門的な知識や技術又は経験を必要とするソフトウェア開発や機械設計、事務機器操作、通訳・翻訳、秘書、調査、財務処理、研究開発、広告デザイン、セールスエンジニアの営業・金融商品の営業などです。

日雇い派遣禁止の例外となる者があります。

60歳以上の者、雇用保険の適用を受けない学生、年間の生業収入が500万円以上の者(いわゆる副業)、生計を一にする配偶者等の収入により生計を維持する者であって、世帯収入が500万円以上の者

 

2 グループ企業内派遣の8割規制 

 グループ企業の派遣会社がグループ企業に派遣する場合の割合は8割以下にされます(新法23条の2)。会社の親子関係は連結決算の範囲内で、また、連結決算を導入していない場合は、外形基準-議決権の過半数を所有、出資金の過半数を出資等―を基準として判断されます。全派遣労働者(定年退職者を除く)グループ企業での総労働時間が全派遣労働者の総労働時間の8割以下となるようにしなければなりません。

 

3 離職後1年以内の派遣労働者派遣の禁止

 離職した企業に労働者を派遣することを許すと、労働条件の切り捨ての可能性が生じかねないので、離職した派遣労働者を離職後1年以内に離職前事業者へ派遣労働者として派遣することを禁止し、派遣先に直接雇用を促そうとしています。

 

4 待遇に関する事項等の説明 / 派遣料金額の明示

 新法では、雇い入れ時、派遣開始時及び派遣料金変更時において、労働者本人の派遣料金額又は所属事業所の平均額のいずれかを明示する必要があります。

 

5 マージン率等の情報提供

 派遣料金と賃金との差額(いわゆるマージン)のほか、教育訓練費や法定福利費、法定外福利費などの情報提供が、改正法施行後に終了する事業年度分から速やかに公表する必要があります。

 

6 労働契約申込みみなし制度

違法派遣と知りながら受け入れている派遣先(違法派遣であることを派遣先が知らず、かつ、過失がない場合を除きます)は、派遣先が派遣元に示した労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす制度が新設されました。直接雇用の申し込みをしたことになります(40条の6)。

 

 今回の改正では、マージン率の明示が義務付けられ、派遣社員1人当たりの平均派遣料金と平均賃金額を使ってマージン率を計算し、年1回、インターネットや事業所での備え付けの資料などで情報提供されることになります。マージン率を比べれば、派遣会社の利益状況がわかり、各社の比較が可能となるはずです。もっとも教育訓練制度にどのくらい配慮して力を入れているかなども注目すべきでしょう。派遣という働き方を望んでいる人たちに必要な情報が届けられ、また、企業の姿勢もこれに応える方向へ進んでいくことが望まれます。<K>

2012年10月3日水曜日

精神不調を理由とする解雇は慎重に

ストレス社会といわれ、職場でも精神的な問題を抱え、本人は勿論、会社もその処遇に困っているようなことが結構あると思います。対処方については8月3日のブログでもお話ししましたので、詳しくはそちらを見ていただくとして、こうした場合に、どのような条件が整えば、社員を解雇できるかについて、最高裁の裁判が今年に入ってから出ました。最高裁平成23年(受)903号事件

社員の人が、病名ははっきりしませんが、被害妄想などの症状があって精神的に不調をきたしています。自分に害を加える集団があって、その集団から依頼を受けた業者ら協力者による盗撮や盗聴により日常生活が子細に監視され、職場の中にもその内通者がいて、自分に関する個人情報を知っていることをほのめかされる等の嫌がらせを受けているものと思い込んでいます。同僚の嫌がらせで仕事にも差し障りが生じて、自分に関する情報が外部に漏らされる危険もあると考え、会社に調査を依頼しました。会社側は、調査したうえで、本人の指摘するような事実はないとして回答しましたが、本人は、納得しません。本人は、休職を認めてくれるように申し出ましたが認められず、逆に出勤を促されたため、自分の受けている被害の問題が解決されないと判断出来ない限り、出勤しないと会社側に伝えたうえで、有給休暇を全て取得し、さらに、約40日間欠勤を続け、会社側から出勤を命ぜられて間もなく出勤をしました。その後、会社側は、この欠勤が就業規則に定める懲戒事由である、正当な理由のない無断欠勤にあたるとして、諭旨退職の懲戒処分にしました。

これに対して、最高裁は、欠勤の原因や経緯が上記の通りであるので、「精神科医による健康診断を実施するなどした上で(略)、その検診結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで、休職等の処分を検討し、その後の経過を見る等の対応を採るべき」として、このような対応を採ることなく、直ちに、その欠勤を正当な理由のない無断欠勤として、諭旨退職の懲戒処分の措置をとることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては、適切なものとは言い難いとして、退職処分を無効としました。

 会社側には厳しいものとなっていますが(第一審は、退職処分は社会的に相当な範囲にとどまるもので有効であると判断しています。)、使用者による懲戒処分が有効とされるためには、就業規則に所定の懲戒事由が定められ、それに該当する行為があったうえで処分に客観的に合理的な理由があって、社会通念上、相当であることが必要とされます。

 精神的に不調を来した場合、特に病識がないような場合は、精神科医への受診をすすめても、受診を拒否するということがあります。このような場合に備え、就業規則の中で、産業医や医師の受診、医師からの会社側の意見聴取にあたっての協力を義務付ける等の手当が必要です。こうした精神的不調に対して対応しうるような形に就業規則が作成されているかどうか、休職、復職に関する手順を定めた規定を含めて、改めてチェックをしていただいた方がいいと思います。

 実際にそのような事態が生じた場合には、就業規則に定められた規定を順守し、医師の意見も充分に聞きながら、慎重に本人に対する処遇を判断していく必要があります。(N)

2012年9月11日火曜日

著作権判断の難しさー釣りゲータウンVS釣り★スタ事件から

グリー株式会社が同社の携帯電話機用ゲームソフト「釣り★スタ」について、同種のゲームソフトである「釣りゲータウン2」を送信している株式会社ディ・エヌ・エー他に対して、著作権(翻案権、公衆送信権)や不正競争防止法などを侵害しているとして、ウェッブページでの掲載の差し止めや作品影像の抹消、謝罪広告などを求めた裁判では、一審、東京地裁(平成24年2月23日)と知財高裁(平成24年8月8日)の判断が全く異なる結果となりました。

東京地裁の判決は、原告グリーの作品は、魚の引き寄せ場面が、水中に三重の同心円を大きく描き、釣り糸に掛った魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ、魚を引き寄せるタイミングを、魚影が同心円の所定の位置にいたときに引き寄せやすくすることによってあらわした点がそれまでの作品には見られなかった独創的な点であると評価しました。被告の作品は相違点はあるものの、原告の作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴、すなわち、水面上を捨象して水中のみを真横から水平方向の視点でとらえている点、水中に三重の同心円を表示する点、魚が同心円の一定の位置に来た時に決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点等についての同一性は維持されている、などとして、多数の選択の幅がある中で、被告の採用した具体的な表現は、共通点において、アイデアにすぎないとはいえない、と著作権の侵害ありと判断しました。
これに対して、知財高裁は、釣りゲームにおいて、魚や釣り糸を表現すること自体はありふれたもの、魚影をもっと表現すること自体アイデアの領域で、原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない、と一審原告の主張の大半を退け、原告に厳しいとも感じられる判断を示しました。

表現行為に至らないアイデアはそのままでは保護されません。他人のアイデアはどこまで参考にすることが許されるか、他の作品そのままでなく、同種のアイデアを表現した場合の許される表現の限界の判断は難しいものです。
原作品に変更を加えて新たな二次的作品を作り出し、その二次的作品にはなお原作品の創作性が認められる場合に、原作品の著作権者は何も文句が言えないのか、ここで行使されるのが著作物に対する翻案権です。翻案の範囲に入るのか、それとも単に原作品のアイデアを利用しただけで原作品の著作権を侵害したことにはならないのか、非常に難しく裁判例も多いところです。裁判所は「二次的作品から原作品の表現上の本質的特徴を直接感得できるか」という基準を使って判断していますが、具体的な判断は両作品を実際に見て比較検討しないと何とも言えません。
両作品の類似している部分に着目し、その類似部分が原作品の表現上の本質的特徴かという判断を行うわけですが、どうしても最後は裁判官の主観に影響される印象があります。 
絵をコピー機でコピーする等、原作品をそのまま特に変更せずに利用する場合は複製権の問題になります。他方、人物画を描くに当たり正面からではなく振り返った姿勢を描いた絵を参考にして同じように描いてみるなど、あくまでアイデア或いは創作性の無い部分が共通するだけで実際に出来上がった絵は全く別個のものである場合は著作権侵害の問題は生じません。問題はこの中間部分です。

身近な例で言えば、インターネット上で日記やブログ、または個人サイトで、英語などで書かれた文章を許可なく翻訳し、インターネット上にアップさせる行為、これは翻訳権の侵害になります。また、ある文章を表現などもそっくりそのまま使って短い文章に縮めて表現する行為は翻案権の侵害にあたります。しかし、同じような内容でも、表現をそのまま使わずに、自分の言葉で表現しているのであれば、それは翻案権の侵害にはなりません。いずれにせよ、自分の表現行為として、これが他人と違う本質的な特徴であるという部分が大切ですね。

みなさんは、釣りゲームソフトの事件、どう思いますか。<K>

2012年8月3日金曜日

メンタルヘルス不調に対処するには

誰でも好んで心の病気にかかるわけではありませんが、メンタルな面で何かと悩みを抱えてしまうと本人も周囲も対処に困ります。最近では、仕事中はうつで、仕事以外の時間は元気といわれる「新型うつ」という言葉も使われるようになり、ますます周囲としては理解しがたい面もあります。しかし、メンタルヘルス不調に関係する労働分野でのトラブルは増加しており、厚生労働省が毎年発表している「精神障害等に係る労災補償状況」に見る請求件数は、平成12年には212件だったところ、平成22年には1181件、認定件数は12年36件に対して22年では308件と急激な伸びを示しています。

業務上のことに起因するメンタル不調はまさしく労災に値するとして対処すべきことで、業務上の理由で負傷したり病気になったりして休業している期間及びその後30日間は、会社は従業員を解雇することはできません(労働基本法19条)。

また、最近では、入社して間もなく精神的な不調を訴えて休暇を主張する人も少なくないようです。会社としては対処に苦慮するケースもあり、このような場合に備えて、試験採用期間を設けたり、私傷病による休業制度の対象者を一定の勤続年数以上の従業員に限る、といったような制限的な休業制度の適用を行うことも見受けられます。もっとも、会社によっては、業務内容や職種によって、復職を期待すべき業務と考えられるのか、充分な検討が必要です。就業規則に、こうした場合の休業命令や休業制度についてのひな形を安易に書き入れたりすると、かえって対処に苦慮するケースも見受けます。従業員は会社にとって重要な財産ですが、休業制度は解雇猶予の意味合いを持つものであり、慎重な検討が望まれます。

病気休暇の取得には、診断書の提出が求められますが、詐病が疑われる場合や診断書の記載が抽象的な場合には、会社としては、本人のほか、診断書を作成した主治医にも従業員の職務内容や作業環境を説明して診断の内容を聴き取ることが求められます。また、産業医の診断を受けるように勧めることも検討すべきです。いずれにしても、従業員の同意を得て進めて下さい。

就業規則などで規定しない限り、復職支援の制度化は会社の法的義務ではありませんが、厚生労働省の策定した復職支援プログラムも参考になります。

復職後も再び不調を訴え、休職・復職を繰り返すような場合には、会社は従業員とどこで折り合いをつけるべきなのでしょうか。就業規則では、通常、「心身又は精神の障害等により業務の通行に耐えられないと認められる場合」を解雇事由として定めていることが多いですが、直ちにこの場合に該当するかどうかの判断が難しい面もあります。

休業制度の利用制限など(例、復職後一定の期間に同一または類似の病気で欠勤するとき休職期間を復職前の休職期間と通算する。同一または類似の傷病については1回限りとする、など)の調整規定を設けるなどの工夫も有効な手立てといえると思います。<K>

2012年6月20日水曜日

景品商法にご注意を-コンプガチャは?握手券は?アプリで賞品は?

先日、消費者庁が、携帯電話で遊べるソーシャルゲームの「コンプガチャ」問題で、「コンプガチャは違法になることを明確にする」と発表しました。景品表示法違反の「カード合わせ」に当たるとの見解と運用基準を正式に示しました。同様に、例えばビンゴゲームのように、異なる絵柄のカードを一列にそろえるとレアアイテムがもらえる「●●ガチャ」なども違法ということになります。本年7月1日以後は、同法違反として罰則のある措置命令の対象となります。

消費者なら誰もがより良い商品やサービスを求めます。しかし、事業者側は実際より良く見せかける表示を行ったり、過大な景品付き販売を行って消費者の関心を惹こうとするのが常です。消費者が実際には質の良くない商品やサービスを買ってしまい不利益を被るおそれがあることから、景品表示法が、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限しています。同法は、くじで買って複数の特定のカードや絵を集めると、より希少な品物と交換する商法を、 射幸心をあおる「カード合わせ」として禁じています。

この運用は公正取引委員会によって行われ、違反した業者には「排除命令」が出され、この命令に従わなかった場合には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せられます。

一般に、景品は粗品、おまけ、賞品などを指しますが、法律上、「景品」とは、①顧客誘因の手段として、②取引に付随して、③物品、金銭その他経済上の利益、と定義されます。くじ等の偶然性、特定行為の優劣によって景品を提供する「一般懸賞」の場合、取引価額の20倍までを最高限度額、総額は売上げ予定総額の2%となっています。複数事業の共同の場合は、取引価額にかかわらず30万円、総額売上予定額の3%です。

懸賞によらずに、もれなく提供される金員類は、取引価額の20%が最高額です。新聞業、不動産業、雑誌業などでは別途の制限がありますので、注意してください。

最近の商売で言えば、ゲームアプリ購入者を対象として抽選でギフトを提供すると行った場合、懸賞による景品類の提供となりますから、対象者が国内外を問わず、事業者が日本国内で行う場合には、景品表示法の規制を受けます。

ところで、今や国民的アイドルとまで言われるAKBですが、CDについてくる握手券の場合はどうなのでしょう。むしろ握手券を目的としてCDを購入する人が多いのも事実でしょう。本来ならば、握手券そのものが取引商品といった印象ですが、AKBは握手券が封入されていてもいなくともCDは一律の値段なので、握手券は、あくまで「おまけ」という建前です。

しかし、昨年、AKBメンバーとの劇場版握手券を偽造して売ろうとした刑事事件で、東京地方裁判所は、財産上の権利を表象した有価証券であるとの判断を示しました。CDよりも握手券にこそ、やはり財産的価値はあるという見解もあるようです。
また、一見、景品表示法では問題はないようにも見える握手券ですが、なにか変な感じ?握手という身体的な接触を「おまけ」とすることで成り立っているこの商法は、キャバクラなどではないけれど、風俗営業取締法の対象とどれほど違うの?(紙一重)と感じるのは私だけでしょうか。<K>

2012年5月17日木曜日

広告宣伝にセレブの顧客誘引力を利用することは可能?!

200ページの女性雑誌に、ピンク・レディーが踊っている写真を使ってダイエット法を紹介した記事が3ページ掲載され、無断掲載がパブリシティ権(氏名・肖像から生まれる価値を支配する権利)を侵害したとして争われました。記事は、ダイエットの効果を見出しに掲げ、イラストと文字によって、これを解説するとともに、子どもの頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するもので、写真撮影はかつて出版社が本人の承諾を得て撮影したものでした。
 
この事案で、平成24年2月2日の最高裁判決は、氏名や写真などによって人を惹き付ける力を有する著名人の場合、その価値を商業的に独占利用できるパブリシティ権を認めたのですが、その一方で、権利侵害について、3つの類型を上げて、これらに該当しない場合には販売促進力の利用が主目的ではないと判断して、ある意味、一定範囲で、有名人の写真等の自由利用を認めたともいえるように読めます。また、「肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もある」として、一定限度で制限をされることを認めました。

3つの類型とは、
①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合、
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合、
③肖像等を商品等の広告として使用する場合で、
専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合には、パブリシティ権を侵害するものとして違法になると判断しました。

人ではなく、いわゆる物のパブリシティ権については、最高裁は、競走馬のパブリシティ権を認めず、「競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではない」としていました。

補足意見では、「専ら」の解釈について、「この文言を厳密に解することは相当ではない」と述べています。いずれにせよ、著名人の写真を使用するときには、利用目的を検討して、適用除外として例示された報道、論説、創作物等に該当するものであっても、慎重であるべきだと思われます。<K>

2012年4月16日月曜日

家族は味方?それとも敵?②-「後見支援信託」制度が始まりました

4月1日から、後見支援信託という制度が全国の家庭裁判所で導入されました。認知症などで判断力が衰えた高齢者らの財産を守る「成年後見制度」に信託契約を利用した新しい仕組みが導入されることになりました。
この仕組みが考案された背景には、親族後見人による被後見人の財産侵害があります。平成12年に導入された成年後見制度ですが、年度における開始件数は、平成21年には、12年開始当初の4倍超となっていますが、親族による財産侵害もまた増加しています。

最高裁判所は、後見申立があった場合に、専門職後見人において、その後の生活計画を立てさせ、日常生活に必要な一定のお金を残して、それ以外の財産(不動産を除く)を原則として換価させて、信託財産として預けさせます。信託は後見人と信託銀行が契約を締結し行います。専門職後見人は辞任し、その後は親族である後見人によって管理されますが、当初の計画にないものについては、裁判所の指示書がないと信託財産から取り出すことができません。

後見対象者である高齢者らの金融資産のうち、当面使う必要のない大きな資産は、元本が保証される信託契約を結んで信託銀行に預けることとし、日常的に使用する少額のみを一般口座で、親族などの後見人が管理するということになります。

例えば、住宅リフォームなどで、大きな支出が必要になった場合は、後見人が家庭裁判所に申請してチェックを受け、家庭裁判所が本人のための支出だと認めれば「指示書」を発行して信託財産からの支出を認めるという手順になります。

今回の制度は、財産の保全に主眼が置かれている印象もあり、後見人本人の権利保護や身上監護が後退するのではないか、本人のための財産利用が抑制的になる、さらには、後見事件一般へ信託制度が波及し、後見業務が画一的な取扱いとなるのではないか等の懸念も日弁連の意見書などで指摘されています。本当に被後見人のための支出なのか、親族である後見人にとっての利益ではないのか、立ち止まって考えることが必要です。<K>

家族は味方?それとも敵?①-平成24年4月1日から民法等の一部改正が施行されました

最近、離婚届の用紙に、養育費の取り決めをしたかどうかといった記載欄が設けられました。昨年の民法の一部改正で、「離婚後の子の監護に関する事項の定め」について、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定めるものとし、この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない」とされたことによります(第766条関係)。

また、民法において、親権停止制度が創設されるとともに親権喪失や管理権喪失の原因も見直され、子の利益が害されている場合に親権が制限され得ることが明確になりました。また、親権を制限した後の子の安定した監護を実現するために未成年後見制度も見直されました。そのほか、親権者は子の利益のために監護教育をすべきことが明確化されました。これらの法がこの春から施行されました。

これに呼応して、児童福祉法の改正では施設入所等の措置がとられている子の監護等に関し、子の福祉のために施設長等がとる措置を親権者等は不当に妨げてはならないことが明確化されました。親権の停止制度や児童相談所所長の権限強化などの改正は、近年、深刻な社会問題となっていた児童虐待を背景とするものです。児童虐待を行う親への対応としては親権喪失制度がありましたが、要件も効果も重く、活用しにくいと指摘されていました。児童虐待のように親権の行使が不適切な場合に、必要に応じて適切に親権を制限することができるようにする必要があり、また、親権を制限した後には、親権者に代わって子の身の回りの世話や財産の管理を行う適任者を確保する必要があります。このような必要性を踏まえて、児童虐待の防止等を図り児童の権利利益を擁護する観点から、民法や児童福祉法その他の法律が改正されたのです。

親権を行使する親がいない場合には、未成年後見人として複数の者や法人を選任することができることとされました(民法第840条第2項及び第3項関係)。これにより、複数の者や法人が学校教育法第16条に定める保護者になり得ることとなることとなりました。

少子化の中にあっても、子どもは大人の勝手に振り回されている?家族の中で常に幼き人(子ども)を大切にしたいとみな願っているのでしょうが・・・。<K>

2012年3月7日水曜日

部下や同僚からもあるパワーハラスメント

職場でのいじめやパワーハラスメントが社会問題とされて久しいところですが、厚生労働省は、今年1月30日、職場におけるパワーハラスメントの定義を発表しました。この発表は、同省が円卓会議ワーキング・グループを立ち上げて検討した結果に基づくものですが、興味深い資料が示されています。
ワーキング・グループが取りまとめた報告書では、パワーハラスメントとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的な苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義されています。そして、6つの類型を掲げています。
① 暴力・傷害(身体的攻撃)
② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的攻撃)
③ 隔離・仲間外れ・無視(人間関係からの切り離し)
④ 業務上、明らかに不当なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤ 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
こうした定義からすると、パワーハラスメントは上司から部下への行為だけでなく、同僚間や部下から上司への行為もありうることとなります。例えば、圧倒的に情報を握っている部下が、新しい上司にわざと情報を提供しないで嫌がらせをするといったケースです。
パワーハラスメントの言葉の登場とともに、どこまでが指導でどこからがパワハラ(嫌がらせ)なのか、その境界線が明確ではない、と具体的な対応に戸惑うという声も企業側から聞こえてきます。業務上の必要な指導に対しても「パワハラ」だと捉えて被害を声高に主張する部下もいれば、上司の方もパワハラと指摘されることを恐れて管理や指導をしづらくなる、などの過剰反応も現れているようです。
パワーハラスメントを原因とした自殺を労災と認めた判決例も出されています。今後、パワーハラスメントに対する認知度の高まりとともに、訴訟の増加が予想されます。働く現場の状況や管理する企業の安全配慮義務を見直すことは、大切です。
ワーキング・グループは、本年3月を目途に予防策を提言するとりまとめを発表する予定とのことで、注目されます。<K>

2012年1月18日水曜日

「自炊」はダメ?書籍読み取り代行サービスの行方

インターネットの通販サイトで電子書籍を買い求める方も少しずつ増えているようです。日本でも数社が新刊本のすべてを電子化すると発表しています。手元に自分の好きな本を、あるいは好きな部分だけ、軽々と情報として持ち歩けるとすれば、それは便利です。しかし、まだまだすべての本が電子化されているわけではありません。
書籍をページ毎にスキャナーなどでコンピューターに取り込み、電子ファイル化する、いわゆる「自炊」行為を行う業者は、昨年から増え、100社に上ると見られています。
そのような中、昨年12月、書籍を個人利用者が電子化する「自炊」行為の代行は著作権法に違反するとして、浅田次郎さん、東野圭吾さん、弘兼憲史さんら小説家や漫画家7人が、代行業者2社に、代行事業の差し止めを求めて東京地裁に提訴しました。代行業者は、個人利用者の注文を受け、著作者の許諾を得ずに、1冊数百円で「自炊」を行っていることをとらえて、利用者が個人的な目的で自炊を行う場合は、著作権法第30条で「私的使用のための複製」として認められているが、「業者が大規模に、ユーザーの発注を募ってスキャンを行う事業は複製権の侵害」と指摘。さらに事業者が大量に製作した電子ファイルがインターネットで拡散するなど、作家や出版社に深刻な影響を及ぼすと主張しています。
現在の著作権法の下では、私的使用目的の複製は許容されており(同法30条1項)、私的使用にとどまる限りは著作権侵害の問題を生じません。自分の蔵書を「自炊」することは問題がありません。しかし、業者に「自炊」を代行させていることの適法性については、意見が分かれるところだと思います。
電子化された作品は容易にコピーされ、海賊版が大量に流通しかねないことはその通りです。自炊代行が横行する背景事情には、利用者にとって欲しい電子書籍の点数が、少ないという現状があります。上記の事件の結論が出たとしても、日本の電子書籍市場のサービスの整備、単価の適切な設定など、電子コピーが容易な時代に対応した新しい著作権のあり方を検討する必要が急がれています。
例えば、アメリカでは、グーグル社がいろいろな大学の図書館と提携して、その蔵書をスキャンし、データベースを作って、インターネット上に書籍の検索サービスを提供しています(著作権切れのものは全文表示、許諾あるものは最大20頁程度のプレビュー表示、他に本文から抜粋した3,4行を数カ所スキャンしてのせるスニペット(抜粋)表示など)が、これに対して、米国作家協会ほかからグーグルに著作権侵害訴訟が起こされたことがありました。大学の図書館の蔵書の著作権者全員を原告とする集団訴訟(クラス・アクション)として提起されたことでも注目を浴びました。2008年10月に原・被告間で成立した和解は、大学図書館の蔵書の著作権者ばかりでなく、およそ地球上で出版されている書籍に対してアメリカ法上著作権を持っている人すべてにまで、極めて広い範囲に拡大され、原告集団に属しているすべての人が、異議を申し立てない限り(オプト・アウト方式)、その書籍をインターネットで全文配信するライセンスをグーグルに与えるというものでしたが、最終的に、昨年3月アメリカの裁判所は、和解の効力を与えませんでした。
新しいデジタル情報の時代に入り、著作物を電子データに置き換えることから招来される問題は、デジタル情報に適した権利の管理が求められていると思われます。<K>