2014年2月18日火曜日

誤嚥事故をめぐる裁判例の現状~その1~

現在、日本社会は、超高齢社会と呼ばれる状況を迎えて数年が経とうとしています。そうした中、高齢者をめぐる事故やトラブルは、ますます増加し、その対応の重要性は高まっていくものと思われます。

そこで、これから複数回にわたり、高齢者をめぐる事故のうち誤嚥事故について、介護施設ないし事業者側に対して遺族が損害賠償請求を行った近時の裁判例の状況を整理してみたいと思います。

1.どのような場合に、損害賠償が認められるか
(1)まず、誤嚥事故についての損害賠償請求では、①不法行為に基づくもの、と②契約上の責任としての安全配慮義務違反に基づくもの、の二つの法律構成が考えられます。

裁判例上、これら二つの構成を同時に主張するパターンといずれかを主張するパターンとが見受けられますが、①のみの場合がやや多いように思われます。もっとも、①②が同時に主張され、その両方を認定している裁判例も存在しますので、厳密な区別はなされていないとも言えます(この点は、後述⑵とも関係します)。

(2)損害賠償責任が認められるために、最も重要な要素となるのが、①であれば過失(簡単に言えば、不注意)、②であれば義務違反です。これらが、施設や事業者に責任を負わせる根拠となるわけです。

過失に関する細かな定義付けは、ここでは省略しますが、大きく言えば、一般的な介護従事者として事故の予見あるいは死亡結果の回避が出来たのにそれをしなかったということになります。この意味で、契約上の義務を果たさなかったということと、事実上重なってくるわけです。

そして、過失の認定においては、誤嚥発生までの段階、誤嚥発生後の段階の対応の内容がどうだったかということが主として問題となります。誤嚥発生までの段階は、さらに、食事前の段階、食事中の段階に分けられますが、それら具体的な対応の背後に存在する事情として、施設等の体制の問題も考慮されています。

整理すると、
Ⅰ)食事前の段階の対応、
Ⅱ)食事中(誤嚥発生まで)の段階の対応、
Ⅲ)誤嚥発生後の段階の対応、
Ⅳ)施設等の体制、
という4つの段階において、要求される対応等がとられていたか、ということが裁判上争われることになるわけです。

次回は、過失の認定において、具体的にどのような要素が問題となるかについて、見ていきたいと思います。(上杉謙二郎)

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