2010年12月28日火曜日

急速に進む書物のデジタル配信~2010年著作権法の改正~

インターネットを活用した著作の発表が相次いでいます。最近では、ペーパーレスで、ネット配信だけという本も現れました。その背景にはデジタルコンテンツの流通促進のために急がれていた著作権の改正が2010年1月になされたことも背景となっているようです。情報通信を効率化するために、ネットワーク上のキャッシュサーバーやバックアップサーバーでの一時的な情報蓄積が複製にはあたらないと明記されたことは、通信事業者などにとっては安心材料です。

改正から1年が経過しましたが、改正は通信事業者のみならず、その他の事業者や市民にとっても、利用しやすいように変わった点がありますので、ご紹介します。
情報検索サービスに必要な行為は著作権者の許諾を得なくとも可能であることが明記されました。もっとも権利者がネット上で情報収集を拒否する旨の意思表示をしていたら別です。
あのとき流れていたあの音楽、演奏家がわからないけどちょっと使いたい、と言うとき、これまでは、著作権者の許諾が得られないと利用ができないのが実際でした。改正により、文化庁長官の裁定制度を利用し、また、供託金を供託する制度を利用すれば、裁定結果が出る前でも利用ができるようになりました。
また、インターネット販売での商品紹介用の画像が無許可で可能になりました。複製防止措置などの一定の措置を条件としますが、権利者の許諾なしに行うことができるようになりました。写真などの活用で、販売に繫ぐことが期待されます。
研究分野では、情報解析という目的で、音声、映像、文字列などの要素を抽出して比較分類することが行われています。解析技術開発は研究には欠かせないもの。できあがったデータベースはまた別の権利対象となりますが、様々な分野での研究開発の進展が進むと良いですね。

もう一つ、ご紹介したいことがあります。点字図書館等に限定されていた録音図書の作成が公共図書館にも拡大されました。デジタル図書の作成や映画・放送番組の字幕・手話の付加など今まで情報格差に悩まされてこられた障がい者の方々を支援する市民の方々にも朗報といえると思います。(K)

2010年12月21日火曜日

遺留分と債務について


遺留分と借金(債務)との関係について、平成21年3月24日に最高裁判所の判決がでましたのでその紹介をします。
左のような例で考えてみます。
 Aが死亡し(妻が先に死亡)、子どもが2人、B、Cがいます。Aの財産は1億円で、借金が9000万円あります。Aは財産全部をBに相続させるという遺言を残しています。
遺言によって遺産について自由に処分することが出来るのが原則ですが、兄弟姉妹を除く相続人については、遺言によっても侵すことが出来ない割合の権利を持っています(これを遺留分と言います。)。
 Cの遺留分の割合は、上の例では4分の1です。遺言によってBにすべての遺産が移ってしまいますので、Cの遺留分が侵害されており、CはBに対する意思表示で侵害された遺留分の回復を求めることができます。その遺留分の侵害額をどのように計算するかですが、上の例では(相続財産額―相続債務の全体)×4分の1―Cが相続で取得した財産―Cが相続によって負担した相続債務)
となります。
 ところで、借金等の金銭債務については、法定相続分(ここではB、C各2分の1ずつ)に従って、当然に分割されるというのが判例ですので、この場合、Cが相続によって、負担した相続債務額は、9000万円×1/2=4500万円となります。したがって、Cの立場からは、侵害額は、(1億円-9000万円)×1/4-(0―4500万円)=4750万円となります。
 ところが、Bの方からは、遺言で、Bが相続債務も負担するので、遺留分の侵害額を計算するにあたって、遺留分の侵害額に、相続債務の金額を加算させることは許されないとして、遺留分侵害額は、(1億円-9000万円)×1/4=250万円にすぎないと主張し、裁判となりました。
 以上のように、財産の金額と借金の金額が近い時には、大きな金額の差が出てきます。結局、最高裁判所は、Bの主張を認め、「遺言の解釈として、財産をすべて相続させるという遺言がなされた時は、通常、債務についてもすべてその相続人に承継させる趣旨と考えられますので、加算をすることは許されない」としています。
 また、Cが仮に、債権者からの請求に応じて、自分が相続した債務の4500万円を支払っても、それは後日、Bに請求する(求償する)ことができるだけで、遺留分侵害額にこの債務を加えることはできないとしています。
 確かに、財産をすべて相続した時には、相続をした人が借金(債務)も責任を持って支払うというのが通常の感覚であるとは思います。ただし、たとえば、Bが財産1億円を取得した後、借金を支払わなかったとした場合、どうなるでしょうか。Cは債権者との関係では、Bが財産を全部取得したからBが支払うことになっているということは主張することが出来ず、法定相続分で分割された4500万円の限度で支払いに応じなくてはいけません。支払いに応じた後、4500万円についてはBに請求することは出来ます。この場合、Bが取得した財産が残っていたりして資力があれば回収することも出来ますが、Bがこれを使ってしまったりして財産が残っていなかった時には、結局4500万円はBから回収出来なくなってしまいます。
 この最高裁の裁判については、債権者との関係では、法定相続分通りに債務が分割されるという考え方との関係で落ち着きの悪い感じをもっていますが、皆様はどう思われますか。(N)