2012年10月3日水曜日

精神不調を理由とする解雇は慎重に

ストレス社会といわれ、職場でも精神的な問題を抱え、本人は勿論、会社もその処遇に困っているようなことが結構あると思います。対処方については8月3日のブログでもお話ししましたので、詳しくはそちらを見ていただくとして、こうした場合に、どのような条件が整えば、社員を解雇できるかについて、最高裁の裁判が今年に入ってから出ました。最高裁平成23年(受)903号事件

社員の人が、病名ははっきりしませんが、被害妄想などの症状があって精神的に不調をきたしています。自分に害を加える集団があって、その集団から依頼を受けた業者ら協力者による盗撮や盗聴により日常生活が子細に監視され、職場の中にもその内通者がいて、自分に関する個人情報を知っていることをほのめかされる等の嫌がらせを受けているものと思い込んでいます。同僚の嫌がらせで仕事にも差し障りが生じて、自分に関する情報が外部に漏らされる危険もあると考え、会社に調査を依頼しました。会社側は、調査したうえで、本人の指摘するような事実はないとして回答しましたが、本人は、納得しません。本人は、休職を認めてくれるように申し出ましたが認められず、逆に出勤を促されたため、自分の受けている被害の問題が解決されないと判断出来ない限り、出勤しないと会社側に伝えたうえで、有給休暇を全て取得し、さらに、約40日間欠勤を続け、会社側から出勤を命ぜられて間もなく出勤をしました。その後、会社側は、この欠勤が就業規則に定める懲戒事由である、正当な理由のない無断欠勤にあたるとして、諭旨退職の懲戒処分にしました。

これに対して、最高裁は、欠勤の原因や経緯が上記の通りであるので、「精神科医による健康診断を実施するなどした上で(略)、その検診結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで、休職等の処分を検討し、その後の経過を見る等の対応を採るべき」として、このような対応を採ることなく、直ちに、その欠勤を正当な理由のない無断欠勤として、諭旨退職の懲戒処分の措置をとることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては、適切なものとは言い難いとして、退職処分を無効としました。

 会社側には厳しいものとなっていますが(第一審は、退職処分は社会的に相当な範囲にとどまるもので有効であると判断しています。)、使用者による懲戒処分が有効とされるためには、就業規則に所定の懲戒事由が定められ、それに該当する行為があったうえで処分に客観的に合理的な理由があって、社会通念上、相当であることが必要とされます。

 精神的に不調を来した場合、特に病識がないような場合は、精神科医への受診をすすめても、受診を拒否するということがあります。このような場合に備え、就業規則の中で、産業医や医師の受診、医師からの会社側の意見聴取にあたっての協力を義務付ける等の手当が必要です。こうした精神的不調に対して対応しうるような形に就業規則が作成されているかどうか、休職、復職に関する手順を定めた規定を含めて、改めてチェックをしていただいた方がいいと思います。

 実際にそのような事態が生じた場合には、就業規則に定められた規定を順守し、医師の意見も充分に聞きながら、慎重に本人に対する処遇を判断していく必要があります。(N)