2013年11月5日火曜日

パテント・トロールをご存知ですか- NHK番組制作に協力しました


特許というと、苦労して開発した技術を他の人にまねされないために登録しておくものというのが一般的な理解です。今も、その本質に変わりはありませんが、技術革新は日々行われ、とても開発合戦が行われ、すぐに陳腐化してしまう危険性もあり、また、いったん登録が認められた特許権は財産権として売買されているのも実情です。どのように権利を守るのか難しい面があります。

最近では、自らが保有する特許権を侵害していると主張して、巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする問題行動を取る者も現れ、社会問題となってきました。その多くは、自らはその特許を実施していないで(特許に基づく製品を製造販売したり、サービスを提供したりしていない)、権利を主張するものです。今年6月アメリカのオバマ大統領は、賠償金やライセンス料を獲得しようとするパテント・トロール(Patent troll)の取り締まりを打ち出しました。米国では、過去2年間にパテント・トロールによる訴訟件数は約3倍になり、アメリカでの特許訴訟の62%を占めると言われます。トロールとは北欧神話に出てくる洞窟などに住む奇怪な巨人や小人です。日本では、特許マフィアとも呼ばれます。

同業同士で特許権の侵害が争われることがありますが、この場合は、製造している製品や提供しているサービスが似通っていることがあったり、部品や技術の相互提供がメリットなることもあることから、紛争がこじれるよりも友好的な解決を図り、相互の特許権をまとめて実施許諾するクロスライセンスという解決をしたりもします。

しかし、パテント・トロールでは、このような解決の余地はなく、訴訟が長引くことを恐れて、不当な要求に負けて、泣く泣く要求に応じてしまうというケースもあると聞きます。

 

この度、今月1130日から毎週土曜日午後9時~、全4回放映予定のNHK名古屋放送局の番組、「土曜ドラマ 太陽の罠」の制作に協力しました。パテント・トロールを背景とするサスペンス・ドラマです。放映を楽しみにしています。皆様も是非ご覧ください。〈池田桂子 上杉謙二郎〉

2013年10月15日火曜日

相続開始後話し合いがつくまでの遺産の管理をめぐっての争いは・・・


遺産分割の話し合いを始めるタイミングは難しいものです。相続税の申告期限は被相続人の死亡による相続開始から10ケ月ですが、いつまでに話し合いをしなければならないという法律上の期限はありません。未分割のまま、先代、先先代の名義のままになっている不動産の例は数多くあります。

協議が整うまで、誰が管理するのか、不動産に関しては、度々問題になります。

新たに相続人の一人を住まわせる場合には、共有関係にある物の管理行為に当たることから持ち分の過半数によって、決めることになります。無償とするか有償とするかも、話し合いによります。有償になれば、賃貸借の規定が適用されます。持ち分過半数の同意がないまま相続人の一人が独り占めするのは、持ち分を越える部分については違法ということになります。もっとも、ややこしいと感じられることですが、共有関係というのは、一人ひとりは単独で、不動産を単独で使用できる法律関係にあるので、他の相続人からの明け渡しを求めることができません。賃料相当額を請求できるだけです。

では相続人の一人が従前から亡くなった被相続人と同居していた場合はどうか、と言いますと、被相続人との間で無償で住んでよいという合意があったと推認されますので、この場合は、賃料相当額を求めることも難しいところです。 

占有している相続人が遺産である不動産の管理費用、例えば固定資産税やなど修繕費などを負担した場合には、その清算も問題となりえます。

また、被相続人が第三者に賃貸していた場合の賃料はどうなるでしょうか。共有財産から生じた賃料債権は、相続分に応じて分割された債権として、支払いを個別単独で請求することができます。

兄弟も大きくなれば、いろいろ職業や環境にあり、話し合いがつくまでもなかなか難しいところがあります。参考になれば幸いです。<池田桂子>

2013年7月22日月曜日

日本の高等教育奨学金制度の課題

教育費が家計に及ぼす影響は結構大きいものです。奨学金制度の利用者は年々増加し、現在大学学部生の約50%が何らかの奨学金を利用し、また、約3人に1人が独立行政法人日本学生支援機構の奨学金を利用しているそうです。奨学金の利用者が増加する一方で、返済金の滞納者も増加しています。上記の支援機構の1昨年末の延滞学は876億円、延滞者33万人、3ヶ月以上の延滞者のうち46%は非正規労働者か無職者ということです。有利子の機構の奨学金では、延滞金自体の利率も半年ごとに5%発生するため、返しても元金が減らないで、延滞金が膨らみ続けているケースもあります。延滞金の付加が大きくのしかかっているのです。

OECD加盟国中、大学の学費が有償であるにもかかわらず、ほとんどを貸与型の奨学金に頼っているのは日本だけです。最近は、高等学校の学費無料化に所得制限がかけられ、浮いた予算を給付型奨学金の財源に充てるということもなされているようですが、教育予算の中での配分替えにとどまっており、奨学金制度の根本的な検討には至っていません。

日本の奨学金制度のほとんどが貸与型であり、給付型の奨学金はごくわずかです。このあたりに制度設計上の問題点もあるように思います。
返済能力に応じた返済が可能な柔軟な返済制度、所得連動型の返済プランなども検討すべきと思います。

また、資力が乏しくなる高齢期の親が長期の保証債務を負うという現状も奨学金の制度理念からは良しとは言えないものです。大胆な制度の見直しが必要ではないでしょうか。<K

 

2013年6月12日水曜日

超高齢社会で期待される弁護士・弁護士会の役割 


                                                
「超高齢社会で期待される弁護士・弁護士会の役割」   


池 田 桂 子

私事で恐縮ですが、弁護士になって三〇年が経過しました。振り返ってみると、高齢者の問題に関わるようになって二〇年を過ぎ、自分自身も五〇代になりました。これまで幾人もの成年後見人や私的な財産管理人を務めさせていただきました。生活全般に寄り添う体験を通して、人は究極誰かの世話にならなければ人生の最期を終えることはできないものだと痛感しています。高齢者を取り巻く様々な社会問題が生じる中で、弁護士会や行政機関が高齢者の問題を扱う際に関与することも多くなり、現在、日本弁護士連合会(以下、日弁連という)では、高齢社会対策本部の本部長代行(本部長は日弁連会長)を務めています。こうした体験から、昨今の高齢者問題の状況を取り上げながら、私たち弁護士・弁護士会が目指しているところを述べてみたいと思います。

1 社会福祉構造改革と弁護士

四人に一人が高齢者といわれる日本ですが、二〇数年後には、六五歳以上の人口は三三%を超え三人に一人になると予想されています。昨年は高度成長期を牽引してきた団塊の世代が六五歳に達して話題となりました。元気な高齢者が増える一方、長寿化によって七五歳以上の超高齢者も増加を続けており、九十歳を越え寝たきりといった状況の方や認知症など疾病を抱える高齢者の割合も増加するなど、高齢者の生活も多様化しています。

これまでは、子どもが育って都会に出てゆき、親世代は地方に取り残されるといった印象がありましたが、政府が今年三月に発表した将来推計人口によれば、人口減と高齢化が進むことにより、二〇二〇年代には首都圏を含む日本全体を覆い尽くすことになると予想されます。つまり、都市圏及びその周辺の高齢者の急増です。
二〇〇〇年に開始された介護保険制度により、それまでの役所の行う措置制度は、福祉サービス契約により利用者が選択する制度へと大転換を遂げました。介護保険制度の改革と合わせて、民法等が見直され、新しい成年後見制度が始まりました。介護サービスを利用するにも契約書を交わすことが必要となり、以前の措置制度では利用者の判断能力が不十分な場合には、措置を争うといった場合を除いて、弁護士が必ずしも関わることのない領域でしたが、福祉サービスも契約を締結して買う時代となり、法律家の支援が必要な時代へと変化しました。直受する事業者サイドにおいても、福祉分野の法律はもとより、消費者関連法規や法令一般の順守、コンプライアンスの観点等から、弁護士の関与を必要とすることになりました。
言うまでもないことですが、お金、健康、孤独に不安を抱きがちな高齢者の心理につけ込んだ消費者被害も後を絶ちません。被害回復などの紛争解決は、法律家である弁護士の仕事として、もっとも典型的なものです

2 成年後見制度の現状と弁護士

認知症高齢者は、厚生労働省の発表では既に二〇〇万人を越えています。認知症等などの問題で判断能力に難のある高齢者には、必要があれば、四親等内の親族他の申し立てによって、後見開始審判がなされ成年後見人等が付されることになりますが、この制度の利用は、制度利用から一〇数年たった今、平成二三年一年間の申立件数は三万千四百二件にとどまっています。この数字を見ますと、能力の制限を伴う制度である点から消極的にならざるを得ないにしても、制度の利用が進んでいるといえないように思います。
少し前に年金の不正受給目的で親の死亡を届け出ない世帯があるということが社会問題となりましたが、社会全体の所得が減少傾向にある中で、親族による親の財産侵害が問題となっています。高齢者虐待防止法にもとづく親族間への介入が必要となるようなケースも出ています。
親族後見人による財産侵害が多発しているため、最高裁判所は平成二四年二月から、弁護士等に調査的な機能を負わせたうえで、日常の生活に必要な一定の金額を手元に残し、残りは「後見支援信託」として金融機関に預け入れ、払い出しには許可を要する取扱いを開始しました。この制度の導入の際には、日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、社団法人日本社会福祉士会の職業後見人関連四団体と最高裁判所家庭局の間で事前協議がなされたところです。
選任された後見人は、親族が最も多く、五五.六%を占めていますが、制度の利用が始まったころに比べますと、親族の選任されている割合は減少し、第三者の割合が増えています。紛争解決の必要な事案や親族の利害対立から親族に後見を期待できないなどの課題がある事案では、職業専門家による後見人選任の割合は高く、法律問題の複雑な事案では弁護士の選任率は高いと言えます。

運用開始から一年余りを経て、全国の家庭裁判所において、約一六〇件の事案において、適否が検討されています。家庭裁判所がこの制度の利用を検討すべきとして専門職後見人を選任した事件のうち、本年一月末までにこの信託契約締結に至った件数は、一二四件(分散信託を含む)であり、専門職後見人と親族後見人が複数選任されて、権限分掌の定めのあるケースが多数ですが、当初は弁護士等専門家のみが選任され、その後一定の法律処理が終了し状況が落ち着いたところで親族にリレーされる方式を取るものもあります。この制度が適切に運用されるためにも、弁護士らの法律実務家の専門的知見が欠かせません。今のところ新規案件について運用が開始されています。すでに継続中のケースにもこの後見支援信託制度を拡充していくことについては、多くの弁護士会が新規案件についての検討を終えてからであって時期尚早という意見が強いようです。

3 市民後見人の義務と弁護士

さて、最近では、住み慣れた地域でその人らしい生活を支えるという社会的な要請も高まっており、親族や専門家でなく、「市民後見人」の養成を各地で進めようという動きが始まっています。今般、老人福祉法が改正され、市民後見人の要請が自治体の責務であると法律上も位置付けられました。平成二三年度から介護保険制度における全額国負担の市民後見推進事業として予算化がなされ、平成二四年度では、全国八七市町村が事業を行っています。また都道府県によるモデル事業もあります。
市民後見人は、家庭裁判所から成年後見人等として選任された一般市民のことですが、権利擁護の担い手として活躍することが期待されています。重い責任を伴うことから、ボランティア精神にあふれているといったことだけで、安易な養成は許されるものではなく、権利擁護の観点からの研修、契約型社会福祉となったことを背景に民法その他の法律知識の学習は欠かせないところであす。バックアップする体制作りに、弁護士、弁護士会が組織的に関与することが求められています。

4 予想される社会的孤立者への支援

東日本大震災において多くの被災者が発生しました。中でも高齢者や障がい者の割合の占める割合は高く、そもそも要援護者として地域社会でその存在(情報)が十分に周囲に把握されていないことが明らかとなってきました。

人は究極において、一人では生きられず、一人ではその最後を看取ってもらうこともできません。災害といった特別な状況でなくとも、社会的孤立は、地域社会のあちこちに存在しています。弁護士や弁護士会は、地域社会の中で総合的に法律問題を扱っている専門家として、高齢者の抱える問題点を整理し、救済できる法律関係情報を届ける使命があります。総合法律支援法に基づき全国で展開されている「法テラス」での情報提供をはじめ、福祉専門職団体との連携、マスコミへの広報活動などを通して、社会的に孤立をした人々に対して、情報発信をしていくことは大きな課題です。

安定した雇用が減少し、世帯構造も変化する中、現役世代を含めて、生活困窮者が今後増大することが問題とされ始めています。厚生労働省の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」の報告書によれば、近い将来、日本では、生活困窮者がさらに増大することが見込まれています。昨年末現在、生活保護の受給者は約一五七万世帯、約二一五万人にのぼります。また、その予備的な状況にある一群の人々も増えていると言われます。

生活困窮者をはじめ社会的に孤立した人々にとって、弁護士、弁護士会に辿り着くことは容易ではありません。IT化の進んだ社会ならなおさらのことです。こうした生活困窮者の問題は、例えば、老人福祉法に基づく介護保険サービスを利用するように働きかけるなど、地域社会の様々な社会資源を活用しながら、利用可能な法律手続きを選択していく手助けは、今まで以上に弁護士を必要としています。

5 弁護士会が取り組むべき課題

高齢者の様々な法律問題が発生していますが、高齢者が司法にアクセスすることは未だ容易ではないようです。この障害を取り除くためには、個々の弁護士有志が働きかけるだけでは限界があります。そこで、日弁連は、こうしたアクセス障害を取り除くために、二〇〇九年六月、高齢社会対策本部(以下、対策本部と言います)を立ち上げました。急速に進行する高齢社会において,個々の高齢者が尊厳に充ちた生活を実現し,これを維持継続することができるように,全国規模又は地域の実情を踏まえた総合的な法的支援を検討し,必要に応じて弁護士会及び高齢者を支援する各種団体と連携して活動することを目的としています。具体的には、各地の弁護士会の組織的な対応として、高齢者を対象とする専門相談窓口を設置することがスタート地点です。無料の電話相談窓口を開設し、必要な場合には出張相談、面談相談につなぐ体制づくりを目指しています。また、同時にこうした専門相談窓口で対応し、受任して解決する精通弁護士の養成を目指すものです。
平成二五年三月末現在、高齢者や障がい者を対象とする専門電話相談を実施している単位会は三十会、実施予定十二会、未実施は十会です。少しずつ開設に向けて調整中です。出張相談を実施しているも全会ではありません。相談したい時にすぐに弁護士による回答がなされて安心できる体制づくりを進めています。各地の実状に差がありますが、モデル事業を試行的に実施するなどして、全国的に質の高い専門相談窓口を拡充していきます。

また、対策本部は 、弁護士会が対応すべき事業をまとめ、「高齢社会対応のための標準事業案」を策定し,二〇一一年二月八日付けで各弁護士会に対し実施要請を行っています。この標準事業案とは,高齢社会において弁護士・弁護士会が対応すべき事業をまとめたものであり,①相談の充実(週に少なくとも1回から数回以上の電話相談、出張相談の実施)、②高齢者に対応できるスキル(人材、ネットワーク作り)、③新規分野への対応(遺言相続、成年後見、財産管理に限らず、虐待、事業承継などの関連分野)、④福祉の専門家を対象とする相談、⑤法テラス他との連携など中心として,弁護士会として対応するべき内容を示すものです。人的・物的基盤の違いに配慮し,大規模弁護士会と小・中規模弁護士会用に分けて策定されています。既に四〇の単位会で、この標準事業案に沿った取り組みが開始されています。法的サービスのバリアフリー化を目指すツールとして可及的に活用されることを期待しています。

6 ホームロイヤーは高齢者の伴走者

対策本部では、相談事業を中心としたいろいろなモデル事業を実施しました。地域の実情に違いはあれど、顔の見える信頼関係がなければ、高齢者は心を開いてくれず、抱えている本質的な問題は見えてきません。平成二三年秋に開催したシンポジウムを契機に、対策本部は、「高齢者のためのホームロイヤーマニュアル・暫定版」を作成して提案しましたが、さらに検討を重ね、昨年一一月に、「超高齢社会におけるホームロイヤーマニュアル」の書籍に取りまとめて出版しました(日本加除出版より)。この中で、①日常の生活支援、財産管理から死後の事務までトータルに支援する視点に立って、②問題の発生した時の一時的な支援ではなく、継続的に支援する視点で、③福祉・医療専門職などと連携する視点を持って、弁護士の仕事を行う、「ホームロイヤ―」という仕事のあり方を提唱し、業務の取り組み方や課題を指摘しています。個々の弁護士が、この分野で真に高齢者に寄り添った法律支援を行うためには、スキルアップを図っていかなければなりません。対策本部では、全国でホームロイヤ-研修を行っています。

さて、政府の法曹養成会議は、法曹有資格者の活動領域として、高齢社会を踏まえた高齢者にかかわる専門家の養成に言及しています。この分野での専門家の養成に、日弁連の対策本部は今後とも力を入れていきたいと思います。皆さまの応援をよろしくお願い致します。

-法の苑 第58号(2013年5月27日発行 日本加除出版株式会社)より転載


2013年5月28日火曜日

出生前診断といのちの尊厳

先日、医師が出生前診断の結果を読み違え、妊婦に「異常なし」と伝えた結果、ダウン症のお子さんが生まれたのですが、ダウン症の合併症で3カ月余りで亡くなったケースで、裁判報道があり、注目を集めています。「妊娠継続するか中絶するかの選択の機会を奪われた」として、慰謝料請求の裁判が提起されたのですが、医師の判断の過誤は明らかで医師の責任が問われることはやむを得ないと思いますが、こうしたケースで解決策として、裁判で金銭賠償の形で決着をつける方法しか考えられないものでしょうか。

子が重大な先天性障害をもって出生したときに、医師がその出生を回避できたはずとして、親が損害賠償を求める訴訟を、wrongful birth(望まない出生)訴訟といい、子ども自らが、自分は生まれてくるべきでなかったとして提起する訴訟を、wrongful life(望まない生命)訴訟といい、欧米では、以前からこうした裁判が起こされ、議論されてきました。アメリカでは、請求を認める裁判例もありますが、逆に、イギリスでは、これが否定され、フランスでは、「障害のある生」自体を損害と認める判決が出たことを契機に、立法でこれを覆すということがなされています。

日本では、胎児が重篤な疾患に罹患している可能性がある場合に中絶を認める、いわゆる「胎児条項」というものがありません。そのためこうした問題は、これまで表面化してきませんでした。しかし、出生前診断の臨床導入に伴い、このような事例が今後も問題となってくる可能性があり、人間の尊厳そのものに関わる問題で議論を呼びそうです。

親御さんの味わった苦労、苦悩は体験したものでなければ分からないでしょうし、他方でかけがいのないわが子を授かったという実感もあったに違いありません。訴訟は苦渋の決断であったと思います。ご両親の痛みとともに、亡くなったお子さんの生の尊厳も同時に図れる方法での解決がどのような形で可能なのか、裁判官も含めて関わる人々皆で知恵を絞っていただきたいと思います(N)。

 

2013年3月19日火曜日

発明者主義から先出願主義に移行したとされるアメリカ特許法ですが・・・

日本や欧州では先に特許や実用新案を登録申請した者に優先権を与える先願主義を採用しています。最先の出願人に特許を付与する先願主義では出願の優劣は出願日の先後で決まり、出願日について争いは生じず、明確だと言われます。これに対して、開拓者精神、企業家精神を重んじる風潮の米国では、発明した者だけが特許出願人となることができるとしていました。先発明主義と呼ばれていました。発明には、発明の新しさ(新規性)が必要ですが、日本では、出願日を基準としてこれを判断していたのに対して、従来の米国では、発明日を基準として、新規性を判断していたということになります。

20119月にオバマ大統領が署名した「リ―ヒ・スミス米国発明法」は、それまでの先発明主義に変えて、新しい先発明者先願主義first-inventor-to-file systemを定めました。先発明者先願主義に関する条項102条が、2013316日以降の出願日(又は優先日)の特許出願に適用されます。大きな政策転換です。


しかし、316日よりも前の出願には依然として先発明主義が適用され、審査の場では、旧法の先発明主義が残ることになりました。発明日の先後を争う手続をインターフェアレンス(抵触の意味)といいますが、従来あったこの手続きでは2年以内に決定が下されるように要求されていました(もっとも、事件が複雑な場合には、それ以上かかり、相当な費用と時間を必要とすると言われていました)。


新法では先発明主義の廃止に伴ってインターフェアレンスの手続きも廃止されましたが、旧法下のものはその限りで残ることになります。新法では、代わりに最初の出願人が真の発明者を当事者間で争う冒認手続きが導入されました。


日本では、特許出願前に公開されてしまい、新規性を失った発明は原則として特許を受けることができません。発明者自身による発表などの開示行為の場合は、日本での出願前6ケ月以内になされる必要があります。


今回の米国特許法の改正では、これに対して、発明者に1年の絶対的な「グレースピリオド」grace periodという、新規性を喪失しない期間を与えています。先行技術に該当するものであっても、発明の「有効出願日」前1年以内に一定の条件下で発表されたものについては、先行技術があるからダメだというようには扱われません(改正法102条)。この期間によって、発明者は特許出願を準備するための十分な時間と費用を得ることが出来るとともに、発明の早期の開示は社会的にみても公衆の利益に叶うことでもあります。


日本出願に基づく優先権を主張して米国出願をする日本人からすれば、これまで認められてきた「米国出願日前1年前以内」のグレースピリオドから、「日本出願前1年以内」まで、より広く認められるようになると考えられます。しかし、日本では、グレースピリオド期間内に他人が同一の発明を公表すれば、先願主義により、出願が拒絶されるのに対し、米国ではグレースピリオド期間内に他人が同一の発明を公表しても、例外規定により出願は拒絶されない、といった違いがあると言われます。


米国の改正法は、先願主義というよりも、先公表先願主義ともいうべき制度です。発明者Aが自分の発明を刊行物などに発表した後、1年以内にその発明について出願し、別のBさんが独自に発明したと言って、Aさんの発表後Aさんの出願までの間に、Bさんが、同じ発明を出願した場合、Bさんの出願は、Aさんの出願前になされているにもかかわらず、グレースピリオドの期間1年内にAさんの刊行物の発表を理由に新規性が認められないということになります。より早く出願した発明者Bさんの出願ではなく、Bさんよりも早く発明を発表したAの出願が特許を獲得するという関係になります。


両国の違いはあるにせよ、特許を受けたいと考えるならば、実験の経過や結果を記したラボノートを作成することや、発明者等による発明の発表の内容やその時期についての記録、出願する企業内での伝達記録などを詳細に残しておくことが重要であることは変わりなく、発表や刊行物への掲載行為も慎重に検討して進める必要があります。<K>


2013年2月15日金曜日

弁護士費用担保特約の活用

 事故にあった際の交渉事は面倒です。弁護士に相談したい、交渉を依頼したい、けれど弁護士を頼むには費用がかかるのでちょっと考えてしまう、ということを見聞きします。このような時、最近よく活用されているのが「弁護士費用特約」です。 

 皆さんが加入している自動車保険には、特約の一つに、弁護士費用特約というものが付されていることがあります。これは、自動車事故にあった場合、被害者の立場で、相手方との交渉につき、弁護士に法律相談をする、あるいは示談交渉等を依頼する際、弁護士の費用を一定限度額(300万円程度)で損害保険会社の方で負担をするというものです。

 ところで、さらに、一部の損害保険会社では、自動車事故にとどまらず、「日常生活上の事故」に伴う被害についても、弁護士費用を保険で支払う「日常生活弁護士費用等担保特約」という特約付の保険も扱っています。

 これは、たとえば
・自転車と衝突をして怪我をした
・学校や公園等の施設の不具合で怪我をした
・治療上のミスで病気が重くなった、後遺症が生じた
・散歩中に犬に噛まれて怪我をした
等、日常生活を送っていく上で遭遇するさまざまな事故による賠償問題に関し、被害者が、弁護士を依頼して相手方と交渉等する際に、弁護士の費用を保険金として出すというものです。

  被害者にとっては、保険で弁護士を依頼して、正当な賠償金を獲得する有力な武器となるものです。

  一度、ご加入の自動車保険の約款内容を確認したり、保険代理店に問い合わせをして、該当する保険であれば、今後に備えて頭の隅にとどめておかれることをおすすめします。被害を受けた上に、正当な賠償を求めることを自分自身でしなくてはならないとしたら、そのこと自体がストレス、新たな被害ともなりかねません。万が一に備え、勿論、割増の保険料はつきますが、このような特約付の保険への加入も検討されてはどうでしょうか。 〈N〉

2013年1月25日金曜日

薬のネット販売は解禁される方向へ・・そもそも省令で禁止すべき?

  本年1月11日、ネット通販2社(ケンコーコムとウェルネット)が国を相手に大衆薬の販売権の確認を求めた訴訟で、最高裁が、これを禁じた「厚生省令は違法で無効」とする判決を下しました。
 
  そこで、厚生労働省は、省令で原則禁止してきた一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を条件付きで解禁する方針を決めました。地裁では2社が敗訴、高裁では逆転勝訴、さらに最高裁で決着がついたという経過です。 最高裁が認めたのは、ネット販売を省令で禁止しているのは、薬事法から委任された範囲を逸脱していて違法であるということであり、薬事法の改正は今後の検討課題ということになります。
    
   医薬品の取り扱いは利用者の健康や安全に関わるため厳しい規制が課されています。医師の処方箋がなくても買える薬である大衆薬の販売は、原則として薬剤師のいる薬局やドラッグストアに限られていました。2009年6月施行の改正薬事法では、大衆薬を副作用のリスクの高さによって第1類(H2ブロッカー含有薬や一部の毛髪用薬など)、第2類(主な風邪薬や解熱鎮痛薬など)、第3類(主な整腸薬や消化薬など)の3つに分け、副作用リスクが低い第2、3類は薬剤師がいなくても「登録販売者」の資格を持つ人がいれば販売できるようになりました。登録販売者は薬剤師より取得しやすい資格なので、一部のスーパーやコンビニエンスストアがこれを機に登録販売者を置いて大衆薬の販売を始めました。

    一方、旧薬事法で認められていたネット通販は規制が強化されました。改正薬事法に規定はありませんでしたが、厚労省は省令によって第1類と第2類について「店舗で対面で販売させなければならない」と定め、ネット販売を原則禁止していました。対面販売により、薬剤師や登録販売者が医薬品の副作用などについて利用者に直接説明しなければ、健康への被害を防げないと判断したためです。それまで大衆薬を販売していたネット通販企業はこの規制に強く反発し、争っていたのです。 体が不自由で薬局へ行けない人や、身近に薬局のない地域に住む人たちなどは不便なため、利用者からも規制の見直しを求める声があがっていました。

   今後は、規制緩和で、ネット企業や流通業者が医薬品販売への参入が加速する可能性があります。日本チェーンドラッグストア協会は、昨年9月「医薬品は本来対面で提供されるべき」という姿勢を示しつつ、安全にネット販売するためのルール整備が必要という認識を示しています。 最高裁の判決はネット販売の是非については判断しておらず、全面解禁を容認したわけではありません。判決当日、厚労省は、大衆薬のネット販売手法に関する検討会の設置を決めました。今後、安全性を確保するためのネット販売の情報提供ルールづくりを進める見込みです。安全性と利便性を両立するルールをつくれるかが注目されます。

   今後は国会で、薬事法の改正が議論されることになりますが、仮にネットと店舗(対面販売)の垣根は外される方向になるとしても、消費者がその両者を使い分けることが可能なように、必要な情報や商品知識の提供が必要だと思いますし、業界のエゴで健康に関わる権利が制限されないように願いたいものです。<K>