2011年12月12日月曜日

平成23年特許法の改正の施行決まる~通常実施権の当然対抗制度~

今年23年6月に公布された特許法の施行が、24年4月1日からと決まりました。改正の要点は、
1 通常実施権の当然対抗制度
2 冒認出願において真の権利者の救済
3 迅速な紛争解決のための再審
4 新規性の喪失の例外規定の緩和
などです。

 今回の改正で、特許権者からライセンス契約により通常実施権を受けていたライセンシーは、特許権者であるライセンサーが第三者に譲渡した場合、登録等を要せずに当然に特許件を譲り受けた第三者に対して、自己の通常特許権を主張することができるようになりました(当然対抗制度)。改正後の特許法99条は、「通常実施権は、その発生後にその特許もしくは専用実施権またはその特許権について専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する」としています。つまり、従来の登録制度下で見られた譲受人から差し止め請求や損害賠償請求を受けないということです。また、ライセンサーが破産した場合にも、破産管財人の解除権は認められないことになります。

この改正で、特許法が準用されている実用新案権や意匠権についても、当然対抗制度が導入されることになりました。他方、商標権や著作権については、当然対抗制度は認められません。

通常実施権は、ライセンス契約で定められますが、通常実施兼の許諾だけが書かれているわけではないので、その他様々な契約上の権利義務の取り扱いについては、改正後の枠組みで、どう考えたらよいのでしょうか。審議はなされたようですが、今回の改正ではライセンス契約関係が譲受人に承継されるか否かについては、個々の事案に応じて、判断されるのが望ましいというところに落ち着いたようです。

実際、複数のライセンス契約に基づき、多数の通常実施権が許諾されていることも多いので、そのすべてを登録することの手間とコストから、登録制度は活用されなかったため、アメリカやドイツ同様に当然対抗制度を採用したものです。

いずれにせよ、特許権を譲受けようとする場合取引の安全を保護する規定がない実情では、譲受けの際のデューディリジェンスが大切です。<K>

2011年10月18日火曜日

クレーム(特許請求の範囲)の文言解釈、切れ目の入れ方で特許侵害を争った切り餅事件~越後製菓VSサトウ食品~

切り餅の業界で、1位と2位の会社が争いました。越後製菓が、サトウの切り餅で知られるサトウ食品工業に切り餅の切り込みの特許権を侵害されたとして、サトウに製品の製造販売の差し止めと損害賠償を求めました。
1審では、侵害はないとされましたが、平成23年9月7日、知財高裁は「サトウ製品が越後の発明の範囲に含まれる」と判断して、一転して、特許権侵害を認める判断を示しました。この中間判決を前提に、今後は、差止範囲や損害賠償額の算定が審査されます。

越後製菓は、餅に切り込みの入った、焼いても中身が噴き出しにくい切り餅を開発したとして、平成14年に特許を出願しました。佐藤の方は、側面に加え、上下面にも切り込みを入れた商品で、15年に出願し、ともに特許登録が認められました。

その判断が分かれたのは、請求項の文言解釈です。「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け」という請求項の文言について、冒頭の部分が読点が付されることなく続いているのであって、そのような構文に照らすならば、冒頭の「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は、その直後の「小片餅体の上側表面部の立直側面である」との記載部分とともに、「側周表面」を装飾していると、解釈文言を述べています。つまり、読点の付し方がとても重要と言っています。
また、特許の作用効果として、切り餅の側周表面の周方向への切り込みによって、膨張による噴き出しを抑制する効果があることを利用した発明であって、底面や上面に切り込み部を設けたために美観を損なう場合が生じるからといって、そのことから直ちに、底面又は上面に切り込み部を設けることが排除されていると解することは相当ではない、として、明細書の記載、特に作用効果のクレーム解釈を述べています。

さらに、知財高裁は、出願の経過についても検討を加えています。越後製菓は、出願に対する特許庁の拒絶査定に対し、その拒絶理由を解決しようとして、手続き補正を行い、切り餅の上下の底面又は上面ではなく側周表面にのみ切り込みが設けられる発明であると意見を述べましたが、審査官から新規事項の追加に当たるとの判断が示されたため、再度の補正を行い、意見を撤回しました。その経過からすると、上下面に切り込みがあってもなくても良いと主張していた、と判断されたものです。

このような判断で、知財高裁は、文言通り側面のみの切り込み技術に限定されるとの一審の判断を覆しました。

餅屋は餅屋というように、物事にはそれぞれの専門があるわけですが、その意図する技術の目指すところ、コンセプトがものをいう、という印象の感じられる事件でした。
特許申請の請求項でなくとも、文章において、句読点の位置は人生を左右することもある重要な「点」ですね。<K>

2011年9月6日火曜日

こんな程度のことで?の感覚では許されない賄賂~対岸の火事ではない英国賄賂法~

円高で日本企業の中には、生産、販売拠点を海外に移そうとお考えの企業は多いと思います。現地での情報収集は大切ですが、国内本部からの出向者の知らないところで、例えば、契約しているコンサルタントや代理店が公務員や取引先に賄賂を渡していたら、日本の本社が処罰対象になることがありうるのです。ことさら便宜を払ってもらおうと言った意味の賄賂でないチップも処罰対象となれば、いい加減には済まされません。

1977年に制定されたアメリカ海外腐敗行為防止法(FCPA)による摘発、処罰の件数が昨年は80件に上ったそうです。日本企業も摘発されています。日揮がナイジェリアで米国などと共同で参画したLNGのプラント施設で政府関係者に贈賄行為をしたとして、アメリカ司法省と約180億円和解金を支払い、起訴猶予の司法取引をしたといったことが報道された例があります。
摘発例はきかないものの、日本の法律でも、外国公務員等に対し営業上の不正の利益を得るために不正の利益供与、つまり賄賂の提供やそうした申し込みについて、日本人の国外犯も処罰対象としています(不正競争防止法18条、21条2項6号、同条6項、刑法3条)。

今年7月に施行された英国賄賂法改正は、さらに厳しく贈収賄を規制しようとしています。英国企業だけでなく、英国でビジネスの一部をする企業も対象となり、当然、日本企業も対象となります。日本の不正競争防止法は、国外での贈賄行為は日本企業、日本国民に限定していることと比べても、大変厳しいものです。

注意すべき英国賄賂法の特徴としては、①個人の責任だけでなく、会社の刑事責任を規定していること 、②英国内だけでなく世界中で発生した贈賄行為が処罰対象となること 、③贈賄の対象は、英国の公務員、英国以外の外国の公務員のほか、私人に対する贈賄も処罰対象となること 、④外国公務員への贈賄については例外規定を設けていないこと 、⑤贈収賄の対象となるビジネスが英国と関係ないものであっても、英国において事業拠点があるだけで、会社の刑事責任が発生すること、⑥企業が贈賄を防止できなかったことに基づき刑事責任を問われた場合、企業側に唯一許される防禦方法は、贈賄防止のための「適切な手続を実施」していたことを企業側で反証すること、などです。個人については10年以下の禁固または罰金、法人について金額の制限ない罰金と法定刑も重く、公訴時効の概念もないので、見方によっては世界で最も厳しい贈賄規制法とも言われます。

企業が免責されるのは、賄賂を防止するための適切な仕組み」していたかによります。自社が晒されている贈賄リスクの性質と範囲について定期的かつ総合的にアセスメントすることが必要ですし、贈賄は許されないという経営陣の考えを社内外に伝えることも不可欠であると、英国賄賂法は規定しています。賄賂企業とならないガバナンスは重要です。<K>

2011年8月25日木曜日

高齢者住まい法をご存知ですか?

 4人に1人が65歳の高齢者という時代。最近の傾向として、歳を取ったら、住み慣れた自宅にこだわらないで他に移るという選択をする方々が増えているという調査結果があります。高齢者だけの世帯も増えていて、不安を抱えるよりも、サービスを得て安心して暮らしたいという気持ちの表れのように思います。
 平成23年4月に高齢者の居住の安定確保に関する法律、いわゆる「高齢者住まい法」が改正されました。「有料老人ホーム」と「高齢者専用賃貸住宅」(居室の賃貸借契約で、生活関連サービスは任意)を一元化(統合)する制度として、登録制の「サービス付き高齢者住宅」という法律概念が創設されました。介護・医療サービスと連携して安心して暮らせる住居の提供を社会全体で後押しする、という目的です。
 床面積や建物の構造などのハードだけでなく、前払い金の返還、契約前の書面の交付や説明など、事業者として守らなければならない事項の規制があります。
 ここ数年、入居したらパンフレットと違っていた、あるいは入居して3ヶ月もたたないうちに解約して退去したが入居一時金の殆どが返還されない、といったトラブルが相次いでおり、こうした事案についての判例も出されています。こうしたことにも対応しようということでもあります。
 入所施設の経営は、福祉系の施設には設置主体に制限がありますが、有料老人ホームには特に制限がありません。高齢者ビジネスを考える上で、家賃相当額を基準にした入居権利金、一時金の設定や適切なサービス、その表示の仕方などを考えますと、今しばらくは、こうしたビジネスチャンスの中で、淘汰される事業者がかなり出てくるものと思われます。(K)

2011年7月25日月曜日

労働関係法規の改訂・整備は早めに手当てを

労働関係法規の改正がなされても、事業規模に応じて、その適用に猶予がなされていることがあります。日常業務に取り紛れて、後回しになってしまうこともある労務関係の改正ですが、適用期限をマークしておいて、フットワークの良い対応を心掛けたいものです。

平成22年6月から施行されている、①時間外労働の割増賃金率の引き上げ、と②子育て中の短時間勤務制度など育児・介護休業法の改正は要注意です。

①労働者が時間外労働をした場合、通常の労働時間に支払われる賃金の25%以上の割増賃金を支払はなければならないことはご存知と思います。長時間労働の抑制のため、改正により、1ケ月に60時間を超える時間外労働を行う場合には、割増賃金率が25%から50%に引き上げられています。適用の中小企業に該当するかは、人数と資本金で細かく規定されていますので、厚労省のHPで確認をしてください。

②3歳までの子どもを養育している労働者について、短時間勤務制度、残業免除制度などの中から1つを選択して制度化すれば足りるとしていました。改正後は、1日原則6時間の短時間勤務制度を設けることが事業主の義務となっています。
残業も労働者が請求した場合には、免除しなければなりません。
また、小学校就学前の子どもが病気やけがで親が休みを取る必要が出てきた場合、看護休暇は労働者一人当たり年5日取ることができましたが、改正後は、労働者単位で考えるのではなく、就学前の子ども一人単位で考えることになりました。子ども一人いれば5日、年10日を上限となっています。介護休暇についても同様に被介護者単位という考え方です。
対象家族1人につき、年93日を上限として、となっています。
常時100人以下の労働者を雇用する企業についても、この規定は24年6月30日までに適用が猶予されているというものの、残り1年をきりました。さて、まだ未整備という会社の関係者は、重い腰を上げてくださいね(k)

2011年6月22日水曜日

災害と建物修繕

東日本大震災から3ヶ月が経過しました。原発事故の問題も加わり、被災地の方々には、心からお見舞いとエールを送りたいと思います。

さて、地震で建物が壊れた時、所有している建物ならば、住宅ローンはどうなるか、が今一番の関心事です。二重ローンの負担を避けるための法的スキームが国会で議論されています。震災という予想外の出来事ととはいえ、金融機関がローン債務を免除することにするには要件の検討が重要です。金融機関の貸倒れを招かない対策も必要ですが、免除益が発生してしまうと税法上の問題をどのように解消するかも、焦点となっています。

なお、亡くなった方が住宅ローンの支払い途中だったという場合には、ほとんどの金融機関では、住宅ローンを組む時に、「団体信用生命保険」という保険への加入を義務付けていますので、団体信用生命保険により、住宅ローンがなくなることがあります。

次に、所有している建物であれば、修繕に地震保険の適用が気にかかるところです。扱いは以下の通りです。
全損・・・重要構造部の損害額が時価の50%以上、又は、焼失・流失した床面積が70%以である損害
半損・・・主要構造部の損害額が時価の20%以上50%未満、又は、焼失・流失した部分の床面積が20%以上70%未満である損害
一部損・・主要構造部の損害額が時価の3%以上20%未満の場合、又は床上浸水あるいは地面から45㎝を超える浸水の場合
 
また、「住家被害認定」という言葉を耳にしますが、これは被災世帯の生活再建のための支援金等の支給の前提として、地震による建物被害の程度を示すものであり、地震保険の判定とは異なるため、齟齬する場合があります。住み家が居住のための基本的な機能を喪失したり、倒壊や流失で補修しても元通りにして再利用することが困難になったりして「全壊」と判定されても、全損とならない場合は考えられます。

賃貸建物の場合は、残りの部分だけでは、賃貸借の目的が達せられない場合、借主は契約解除することができます。まだ使用できる場合には契約は存続しますが、滅失部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができます。
貸主の側は、破損した建物を修繕する義務を負いますが、雨漏りや水漏れよる借主の家財道具の損害についてまで賠償責任を負うものではありません。

そのほか、貸主が、罹災法での適用がある場合には(適用対象地区は政令で定めます。)、貸主が新しい建物を建築した場合に、借主は優先入居することができますが、今のところ、適用するという動きはありません。罹災法は、いろいろな問題点を抱えており(日弁連は、適用に反対の意見書を提出しています。)、阪神淡路大震災の際には、すぐに適用されていますが、今回は、3か月経過しても適用されていないことから、最終的に適用されない可能性が高いのではないか、と思われます。

災害時に限らず、自宅も事業用建物も重要な財産です。トラブルの解決には法律の解釈や基準がものをいいます。参考にしていただければ幸いです。(k)

2011年5月18日水曜日

震災で得する企業と非難されないことも大切です

東日本大震災で、多くの事業者が設備を失ったり損傷したりの被害を受け、東日本地域への製品輸送にも大きな影響が出ています。一刻も早く生産活動を再開したい、そのため、必要な原材料、部品、製品、サービスの至急の供給を求められている企業も多いことでしょう。
業者間での協力は不可欠ですが、閉鎖的な情報網で相手先や供給量を決定するとカルテルといわれかねないといった心配もあるように思います。
情報交換を行う事業者間での目的を明確にし、目的に限定した対応であることが確認できるように配慮しておきたいものです。
公正取引委員会は3月18日「被災地への救援物資配送に関する業界での調整について」を発表し、独占禁止法違反にならないように、ケースを挙げて説明していますので、参考になります。
震災に乗じた取引と言われないよう、気配りにご注意願います。<K>

関連サイト 
公正取引委員会の東日本大震災に関連するQ&A 

2011年4月4日月曜日

敷引契約の有効性

消費者契約法が施行後、マンション等の賃貸借契約でこれまで当たり前とされてきたことについて、法的な見直しを迫る裁判例が相次いでいます。明渡にあたっての原状回復の費用を全て借主に負担させ敷金から引いていいのかどうか、契約更新のたびに家主は更新料を請求できるものなのか、等々。
今般、関西地方を中心に居室の賃貸借契約で慣行的に行われてきた敷引契約(明渡時に、明渡までの賃貸期間に応じて一定金額を保証金から当然控除し、その代わり通常の使用や経年によって自然に生じる損耗については、借主は原状回復を要しないという特約)について、最高裁の判決がでました(H23.3.24最判)。敷引契約が消費者契約法10条に反して、消費者である借主の利益を一方的に害するものではないか、という問題意識から訴訟が提起され、高等裁判所段階では、無効なのかどうか判断が分かれていました。最高裁は、一律に無効とはせず、補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金、更新料等の一時金の授受の有無やその金額を判断要素として、敷引金が高額にすぎるときは、賃料の近隣相場と比較して、大幅に低額である等の特別の事情がない限りは、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法10条により無効となるという判断を示しました。問題の事例では、敷引の金額が、2倍弱ないし3.5倍強にとどまり、更新料として更新時に1ヶ月分の負担があるほかは礼金等の支払義務がないことを理由に、敷引の金額が、「高額に過ぎる」ものではなく、無効であるとはいえないとしています。
判断材料は一応示されているものの「高額に過ぎる」という評価を含む判断基準なので、どの辺りまでが限界なのかははっきりとはしませんが、当該事例での上記の判断の仕方をみると、無効となる余地は残しているものの、敷引契約が無効となるのはかなり限られた事例であると思われます。(N)

フレッシュマン採用で、「試用期間」の位置づけにご注意を

4月は新しい職場のメンバーを迎える季節です。新卒者についても中途採用の若手社員についても、時に「就業規則の定める試用期間の定めに従って採用したが解雇したい」という相談がなされることがあります。採用された側からすると、「正社員で入社はずなのに解雇された」という言い分になります。
労働政策研究・研修機構の調査では、試用期間を定めている企業は73.2%にのぼります。また、本採用の拒否事案はその調査の過去5年間内では、13.1%あるそうです。
試用期間については、有名な最高裁判決(昭和48.12.12の三菱樹脂事件判決)があります。その判断では、試用期間中に使用者に留保された解約権の行使、つまり解雇は、通常の解雇の場合より、広い範囲における解雇の自由が認められる、とは述べているのですが、「採否決定の当初においては適格性の有無に関連する事項(資質・性格・能力等)について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に収集することができないために、後日における調査や観察に基づく最終的な決定を留保する」ものだと述べていることが重要な点です。つまり、あくまで、試用期間中の調査結果や勤務状態により新たに認識した事実を根拠とすると客観的に合理的な理由があって、社会通念上も相当と考えられることが必要なのです。
通例、試用期間は2ヶ月から半年くらい。試用期間といえども労働契約は有効です。企業側は、試用期間を商品サンプルのお試し期間のように安易に考えないでほしいものです。また、新入社員側は、正社員になるために学びながら適性をアピールする期間ととらえて、臨んでいただきたいものです。<K>

2011年3月28日月曜日

被災お見舞い申し上げます

東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様方にお見舞い申し上げます。被害の甚大さ、自然の残酷さ、理不尽さを見るにつけ、胸が痛みます。
 私たちに出来ることは、ありきたりな表現ですが、長い目で被災地、被災者の方々を見守り、復興に向けた支援を弛まず続けていくことだと思います。
 また、今後様々な法律問題が生じてくることが予想されます。家が流されてしまったが、ローンは支払わなくてはいけないかどうか、建築途中の家が壊れてしまったが、誰が損害を負担するのか、地震でマンションの配管が壊れ、漏水して、階下の人の部屋が水浸しとなってしまったが、賠償しなくてはいけないか等。
 阪神大震災をきっかけに、災害をきっかけとした様々な法律問題について、Q&A方式で弁護士会がとりまとめたハンドブックがあり、下記の通りネット上で公開されています。
 被災者の方々でお悩みの方々、あるいは、被災者の方を友人、親類にお持ちの方でご相談を受けている方などには、参考になると思いますので、ご案内しました。(N)
http://www.shojihomu.co.jp/0708qa/0708qa.html
http://www.sn-hoki.co.jp/shop/zmsrc/qa50593/mokuji.htm

2011年3月3日木曜日

コンピューターソフト仕様変更でトラブルとならないために

最近の企業活動には、さまざまな文書の作成管理、情報の管理と伝達、集積について、業務管理システムが必要です。コンピューターシステムの利用なしには一日も事が進まないのが実情で、大なり小なりその企業の業務に関して、コンピューターシステムのお世話にならざるを得ないところです。市販のアプリケーションを使うだけでは足らないという場合には、企画立案からカスタマイズされたシステムの基本設計、プログラミング、そしてテストのうえ完成、保守管理に至るまで、システムを開発することが必要であり、システム全体が企業活動を体現しているともいえます。

ソフトウエアの開発を依頼する場合、詳細な条件を記載した契約書があれば、契約の成立時期も、ソフト完成の時期も明確ということになりますが、開発対象が依頼者と開発を受託した事業者との共同作業により進行することが多いため、それが、準備的な段階なのか、契約した作業(債務)の履行の段階なのか、不明確になって、トラブルを生じることも少なくないようです。
①正式契約をしないのに作業を開始してしまった、②作業にあった契約形態になっていない、③契約に不備があるといったものが、主たるトラブルであると、経済産業省の情報システム・ソフトウエア取引トラブル事例集(2010年3月)では考察しています。

システム開発会社からの提案について、具体的な提案であるか、何についての承諾なのかを明確にしておくことが、望まれます。基本契約書を結んでおき、システム開発の各段階における作業の内容と責任分担を決めておく、個別のシステム開発がどのような手順で契約成立に至るのか、共通の認識にしておくことが肝要です。また、仕様の変更により、追加の報酬が問題になるケースも良くトラブルで見かけます。
当初の予定内容を変更する場合にも、変更提案書の交付と協議のうえ了解した記録を残しておく、協議が整わなければ契約は終了すること等をあらかじめ契約書に定めておくことは、大切なことですが、これがなかなか行われていないようです。備えあれば憂いなし。もう一度契約書をチェックしてみませんか。<K>

2011年2月1日火曜日

続・ネット配信録画トラブル-最高裁の2つの判決

今月1月18日と20日、最高裁判所が、相次いで、テレビ番組をインターネットで配信するサービスについて、著作権違反が問われたケースで、破棄差し戻しという判決を出しました。以前に、「 お客様の便宜を図る業者の責任とは?-ネット配信録画トラブル」ということで紹介していたので、続編ということで、ちょっと紹介します。(第3小法廷1月18日)、「ロケフリ」、ロケーションフリーという商品で地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し、受信する放送を利用者からの求めに応じてデジタル化し、インターネットを介して、そのデータを自動的に送信するというサービス。
もう一つは(第1小法廷、1月20日)、「ロクラクⅡ」、利用者が子機ロクラクを操作して、親機の設置されている地域で放送されている放送番組等の録画を指示し、これも、親機にて地上波アナログ放送の受信した放送番組をデジタル化してインターネットを介して子機に送信するサービスです。
サービス事業者は、複製をしているのは、利用者本人であり、私的利用を目的とする適法な複製であると主張して争いましたが、いずれも、最高裁は、複製物を取得することを可能にするサービスで、そのサービスの提供者が支配管理下で枢要な行為をしていると判断し、管理状況について、さらに審理を尽くさせるように原審に差し戻されました。結果はサービス事業者を訴えた放送局の逆転勝訴でした。
前者は、機器は譲渡、有償で預かり管理、国内外でのサービス、後者は、録画の複製、機器は貸与、海外転送サービスという違いはあります。しかし、管理する主体はサービス事業者であるという点では、同様な判断がなされたようです。
デジタル技術、インターネットという新しい技術に、著作権法が追いついていけていないのが実情です。膨大に費用をかけて番組制作を行っている放送局の利益保護とサービス利用者の利便性の調和をどう考えるか、問題です。立法的な解決やルール化が急がれるのは言うまでもありません。後者の判決では、カラオケスナック店の著作権(演奏権)侵害が争われたケースでかつて判決に示された「カラオケ法理」-管理支配性と営業上の利益という二つの要素に着目してカラオケ店主を行為の主体と判断した判断規範-に触れ、カラオケ法理も時代によって変わりうるものであり、この法理を特別な法理として安易に用いることに警鐘を鳴らしています。<K>

2011年1月19日水曜日

契約交渉における情報提供にご注意を!

ビジネス社会に契約は付きもの。契約交渉の過程で相手方にどれだけの情報を提供するか、反対にどれだけの情報を獲得するかは、事業展開にとって死活問題ともなります。
契約するかの最終判断は当事者の自己責任というべきことになるのが基本でしょうが、提供する情報によって、相手を引き寄せたり、相手を信用させたり、といったことは必要です。しかし、駆け引きとして、どこまでが許された範囲なのでしょうか、微妙なケースもありますから、注意が必要です。
取引によっては、相手方から提供される情報がなければ的確な判断がそもそも困難なものも取引によってはあり、そんな時は、情報提供義務が問われることもあります。
ご存知の方もあると思いますが、例えば、フランチャイズチェーンの展開で、新規店の応募、募集では、ファランチャイザーが契約交渉時に提供した売上げや利益に関するフランチャイザーの予測が不正確な情報に基づいたり、不合理な方法で算出された場合には損害賠償義務を負うとした裁判例があります。
中古住宅販売の仲介業者が隣人の迷惑行為を知っていたのに、買主に説明しなかったとして、不法行為責任を認めたケースもあります。記憶に新しいところでは、変額保険その他の金融商品について、売主である保険会社や証券会社の説明責任を認めた裁判例も多数あります。
情報格差のある両当事者の間では、このように、専門知識のある者とない者とで、そもそも構造的に専門的な知識や情報を持っている一方に依存しなければならないという問題があります。その分野の専門家、専門事業者としての情報提供義務があると言ってよいでしょう。

こんなケースではどうでしょうか。某建築会社が将来受注することを想定した焼却施設解体工事で、ダイオキシン類無害化処理システムを計画していましたが、その取得に3億円前後の費用がかかることから、第三者に所有させ、設備を使用させることとして、発注しました。作業を建築会社から受注できると判断した下請業者は、そのために必要な設備を購入しましたが、建築会社から作業の発注はなかったため、設備の取得費と売却益の差額について支払ってほしいと損害賠償を求めました。この事案で、建設会社が業務発注の見込み及び設備取得費の改修ができるか蓋然性を説明しなかった点に情報提供義務違反があるとして損害賠償責任を認めた判決が下された最近の例もあります(東京地裁判決平成21年7月31日判決)。
設備の取得費用の償却が予定期間内にできるかどうかの判断は下請け事業者にとっては重要な情報です。しかし、積極的に誤った情報を提供したような場合は別として、業務発注があるかないかといった情報の提供、すなわち投資費用の回収の見込みという情報は、判断リスクとして下請業者自らが負うべきものという意見もあるように思われます。
このような事案で、最後にものを言うのは、契約条項。その施設を利用した発注ができなかったとしても、そのこと自体は契約違反には当たらないため、下請業者は、発注見込みについての説明義務という信義則違反を争ったわけです。
いずれにせよ、紛争の火種を残さないためには、不確実なことは不確実なこととして認識してもらい後は自己判断に任せるという点をはっきりさせながら交渉を進めるということですが、やはり商売は難しいものですね。<K>