2014年3月4日火曜日

誤嚥事故をめぐる裁判例の現状~その3~

前回までは、どういった具体的要素を考慮して、介護施設側に責任が認められるかについて整理を行いました。そこで今回は、責任が認められる場合に、どの程度の損害が賠償内容として認められるかについて、見ていきたいと思います。

3.なにが損害として認められるか、金額はどれくらいか
損害としては、死亡事故であるため、大きく「亡くなった本人の損害」と「遺族の損害」に分けて考えることになります。

以下、これらについて詳しく見ていきます。

⑴ 亡くなった本人について生じるもの
①逸失利益:死亡したことにより、得られなくなった利益の賠償
亡くなった方の収入(給料や年金など)がその内容となり、例えば年金の場合には、その平均余命分と算定されることになります。(年金が逸失利益検討の対象になるということについては、最高裁平成11年10月22日判決参照。)
但し、誤嚥事故の被害者本人は高齢者であるため、逸失利益そのものは、それほど大きな金額にはなりません。
また、得られるはずの利益がある一方、支出を免れるものもあるので、そうした点を控除することになります。前回(誤嚥事故をめぐる裁判例の現状~その2~)紹介した、京都地裁の裁判例においても、平均余命を全うしたとしても、本人に相当の介護が必要で、その状況も進行している事情のもとでは、得られる年金等も全て生活費、介護費や医療費等に費消されてしまうとして、逸失利益はないと判断しています。

②慰謝料:事故に遭った本人の精神的な苦痛に対する賠償
金額は、事案によって開きがあり、一般化することは難しいと言えますが、概ね1000万~2000万円とされることが多いように思われます。
上記京都地裁の事案では、本人の年齢も若い(50代)ものであって、2100万円という金額が認められています。
また、同じく前回紹介した水戸地裁の事例では、4か月間の植物状態を経たこと、相当の高齢(86歳)であったこと、既往歴などを考慮し、1500万円と認定されています。

③ 葬儀費用
相当と認められる範囲において認定がされています。実際にかかった金額全てが賠償されるわけではありません。

④ その他
入院などを経て死亡した場合には、かかった医療費や付添看護費といった項目も、相当な限りにおいて認定されています。
上記水戸地裁判決では、付添看護費として、日額5000円を認めています。(期間としては、134日分。)

⑵ 遺族について生じるもの
①慰謝料:事故によって肉親を失ったことに対する精神的苦痛の賠償
これも、金額について明確な基準はありませんが、100万~300万円程度に分布するのではないでしょうか。金額の算定にあたっては、亡くなった本人との関係性なども考慮されています。
上記京都地裁の裁判例では、配偶者について、事故まで献身的に難病の介護をしてきた点などを挙げ、300万円を認定しています。
また、さいたま地方裁判所平成23年2月4日判決(判例秘書搭載)では、おむつと尿取りパットを誤嚥した事例において、子どもの慰藉料を100万円と認定しています。

②弁護士費用
これについては、実際にかかった(弁護士に支払った)費用そのものではなく、上記の損害の合計額の10分の1程度と認定されることが多いように思われます。

⑶ これまで見てきたように、損害額については、事案によって認定される幅があるということになります。
賠償請求の中心は、過失や注意義務違反の立証になるということは、前回までにお話ししていますが、そこに現れる具体的な事情・事故の状況というものが、損害額の認定にも、一定の役割を持ってくるというわけです。
(上杉謙二郎)

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