2014年1月31日金曜日

経営者の保証責任からの解放

日本商工会議所と全国銀行協会が事務局となった有識者の研究会が、「経営者保証に関するガイドライン」をとりまとめ、平成26年2月1日から適用開始となります。これは、法的な拘束力はありませんが、自主的自律的な準則として定められ、金融庁もこのガイドラインを踏まえた監督指針を示す予定とのことですから、今後、実効性のあるものとして、このガイドラインが機能することが期待されます。

従前、中小企業にあっては、金融機関からの借り入れにあたっては、経営者の個人保証がセットで考えられ、会社が窮状に陥ると経営者自身も支払責任を負担することになり、思い切った事業展開や早期の再生が出来ませんでした。このガイドラインは、こうした一体性を切断するために策定されたものです。

詳しくは、金融庁のホームページで見ていただきたいのですが、不正確をおそれず、おおまかに要約すると、下記の通りです。

(1)融資にあたっては、法人と経営者個人が、資産、経理のうえで明確に分離され、相互の資金のやりとりが相当の範囲内に収まり、財務、収益基盤が確保されている等の場合は、一律に、経営者保証を求めないで、金利の上乗せ、ABL(商品、売掛金等の担保)等の代替的な融資条件を検討する。

(2)また、個人保証が必要な場合にも、その必要性について、丁寧かつ具体的な説明を金融機関に求め、保証金額も、一律に融資金額と同額にせず、保証人の資産や収入の状況、会社の信用状況等を考えて、その限度額を設定する。

(3)また、保証債務の整理(回収)にあたっても、履行請求をするのは保証人の資産の範囲内にとどめ、将来発生する保証人の収入を含まないようにする、また、一定期間の生活費や華美でない自宅等が保証人の手元に残るようなことも検討する。

このほか、事業承継等で経営者が交代した場合の対応、既存の保証契約の中途解除の申入れがあった場合の金融機関の真摯かつ柔軟な対応等、経営者保証の全般に亘って金融機関や中小事業者の守るべき事項が、ガイドラインとして示されています。

これらの適用にあたっては、上記に記載したもののほか、事業者側に求められている条件もあり、ハードルは高いとは思われるものの、今まで融資にあたって行われてきた、「経営者の個人保証は当たり前」という取引慣行に、大きな修正を迫るものです。今後どのような運用がなされるのか注目したいと思います。(N)

2014年1月29日水曜日

サムスンVSアップル 標準的特許に関する攻防―ビジネスの現場の意見はどうか?


124日、スマートフォン等に関する特許を巡って、アップル社とサムスン電子が争っている訴訟の控訴審で、日本の知財高等裁判所は、標準規格における必須特許を使わせる際の条件等訴訟の争点について、一般から意見を求めることを決めました。

専門的で過去に判例のない争点について、専門家ばかりでなく業界関係者から広く意見を募集しようというものであり、ビジネスの現場の意見を司法の判断に反映させようとする試みです。但し、知財高裁に対して、直接意見を言うのではなく、双方の代理人が324日までに、国内外の専門家から意見を募り、自らの主張立証の資料として裁判所に提出することを予定しているそうです。
 
一般に、ある特定の知的財産権が標準化された技術の規格として、必須のものとされた場合、その特許を保有する企業が特許権を振りかざして、標準規格を使用して製品化を図る他の企業に対して、特許の実施を禁止するようにと脅かしたり、また法外な実施料や理不尽なライセンス条件を要求するという状況が出現しつつあります。そのような場合、標準的な装備と考えて、開発を進めてきた他の企業はすでに投資した設備投資が無駄になる恐れがあります。消費者にとっては利用し易く利便性が高まる技術の標準化ですが、特許権利者の権利保護と標準化を阻害される惧れのバランスをどう取るのかが問題です。

業界全般に幅広く使用される標準特許について、その権利の所有企業が「公正、合理的かつ非差別的な条件」で他社に使用することを認める宣言をFRAND宣言(fairreasonable and non-discriminatory terms and conditions)といい、国際ルールとして定められています。 

意見募集の背景ですが、被告サムスンは、アップル社の再三の要請にもかかわらず、アップル社において、自社のライセンスがFRAND条件に従ったものかを判断するのに必要な情報を提供することなく、また具体的な対案を示すこともなかったことから、誠実に交渉を行うべき義務に違反したとして、サムスンの特許権に基づく損害賠償請求権の行使は権利乱用に当たり、許されない旨、一審の裁判所は判断しました。意見募集は、その控訴審裁判の中での出来事です。 

意見を募るのは、重要技術の特許権を持つ企業が「有料で使用させる」と表明したが、交渉不調などで、使用料が支払れないまま他社がその技術を使った場合、損害賠償請求権を行使できるか、という点のようです。こうした意見に裁判所がどの程度の証拠価値を認めるのか、興味深いところです。<池田桂子>

2014年1月28日火曜日

別居中の親が子どもに会いたい場合はどうする?-バレンティン選手は他人事ではないかも・・・。

先日、プロ野球ヤクルトのバレンティン選手が米国フロリダ州でドメスティック・バイオレンス(DV)事件で逮捕され、日本への入国が危ぶまれていました。裁判所で保釈金を積んで釈放され、ひとまず日本に来ることはできたようですが、話題を呼びました。バレンティン選手は、大リーグの出身で、昨年は本塁打60本を打ってプロ野球のシーズン最多記録を更新した強打者です。

報道によると、バレンティン選手は約1年前から別居中だったそうです。112日の夜マイアミ郊外にある妻と娘の住む家を訪れたのですが、ドアを開けてもられず、妻に電話して出てもらえなかったため、施錠していなかった窓から侵入し、2階まで妻を追いかけて腕をつかんだうえ、一緒にいた部屋に内側からカギをかけて外に出られないようにした疑いがあるということです。不法監禁と暴行罪に問われることになりそうです。

米国では、離婚に向けて、裁判所の関与のもと別居手続を先行させ、別居に際して子どもの監護養育や面会交流について取り決めをします。それに反して、無理やりに家に侵入して面会を無理に行うことは、場合によっては、刑法犯罪につながります。バレンティン選手の事件は、日本でも他人事ではありません。

日本法では、子どもと別居している親が面会を求める場合、面会するのは権利として認められていますが、まず、当事者同士で話し合いをします。話し合いが難しいようなら、家庭裁判所で調停を申立てて、話し合う場面を設定します。

最近話題になるDVの事件では、相手方からの暴力を受ける恐れから、接触を嫌って、面会交流になかなか応じないケースも少なくなりません。しかし、そのような場合には、無理強いをせず、家裁への申し立てを行うべきです。

15歳以上の場合には、子ども本人の意思を聞かなければならず、これを無視して進めることはできません。
面会の方法、日時場所等取り決めができない場合、親の都合よりも、子どもの都合を考えて行うことになります。
幼い子どものケースで、直接親同士が顔を合わせたくない時には、橋渡ししてくれるサポート組織も有りますので、諦めずに交渉してみてください。<池田桂子>


2014年1月22日水曜日

会社法改正その2-第2の委員会制度の新設

現在の会社法では、監査の面では、監査役(会)設置会社と委員会設置会社の2つに機関設計されていますが、後者の委員会設置会社の普及は捗々しくありません。日本監査役協会の調査(H25.10.31)によると、委員会設置会社制度を採用しているのは、僅かに89社しかなく、(そのうち上場会社は57社)、一旦、委員会設置会社に移行したものの監査役(会)設置会社へ再移行した会社が61社あり、委員会設置会社は不人気なのが実情です。

社外取締役への抵抗感、経営を監督するような能力を持つ人材を確保できない等、その不人気の理由はいろいろ考えられますが、委員会設置会社の場合、取締役の選解任議案の決定権限を有する指名委員会、個々の取締役等の報酬に関する決定権限を有する報酬委員会と監査委員会が一セットとされ、しかも各委員会の過半数が社外取締役でなければいけないことから、経営者の人事、報酬という勘所が、社外取締役に押さえられていることへの抵抗感が非常に強いのではないかと、従来から言われています。

そのため、社外取締役の活用を促す意味で、指名委員会や報酬委員会の設置を義務付けず、監査役も不要(但し、会計監査人は必置)とする新しい制度として、「監査等委員会設置会社」という、現行の監査役(会)設置会社と委員会設置会社の中間形態のような、第2の委員会制度を設けるという法案が検討されています。これに伴い、従来の「委員会設置会社」は、「指名委員会等設置会社」と呼ばれて区別されることになりました。

この監査等委員会の監査等委員は、株主総会で他の取締役とは別の「監査等委員」という別枠の取締役として、直接選任されます。また、取締役会の一員として、取締役会で議決権をもち、任期は2年と他の取締役より長く、解任には株主総会の特別議決が必要である等独立性が保障されています。

監査等委員会の職務権限としては、他の監査役(会)設置会社の監査役、指名委員会等設置会社の監査委員会と共通する権限として、取締役の職務執行の監査、監査報告の作成、会計監査人の選任決議議案の決定、会社の業務、財産状況の調査、取締役の不正行為等の取締役会への報告義務、差止請求等があり、また、特有の権限として、監査等委員以外の取締役の選任、報酬について意見を述べる場合にその内容を決定する権限を有しております。

さらに導入のインセンティブとして、取締役と会社との間の利益相反取引についての任務懈怠の推定規定(現行会社法4233項)について、監査等委員会が事前にその取引を承認した場合は、適用しないという改正もセットされています。

社外取締役によるガバナンスへの抵抗感がある中、なんとか社外取締役を導入していこうとする苦労の現れですが、現行の委員会制度のハードルを下げるものとして一気に普及が進むのでしょうか。それとも中途半端なものとして,結局、利用されないものに終わってしまうのか、皆さんはどう思いますか。(N)

































































































































































 

2014年1月8日水曜日

会社法改正の動き-「社外取締役を置くことが相当でない理由」って何?


会社法の一部を改正する法案等が昨年11月の臨時国会に提出され、結局、同国会では審議されずに継続審議とされています。

平成18年から施行された会社法の全面的改正以降、社外取締役の果たす役割に期待して、監督機能を強化すべきとの指摘が強くなり、この法案では、社外取締役の確保が重要項目の1つとなっています。

今回の法案では、上場会社等、有価証券報告書の提出義務が課される会社について、社外取締役の選任を義務付けすることまでは見送られていますが(社外性の要件自体は厳しくなっています。)、選任しない場合には、定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない」という法案となっています。

社外取締役を置かない理由としては、費用がかかる、適任者がいない、外部から人が入ってくると意思決定がスムーズにいかない等、いろいろ思い浮かびますが、社外取締役を置くことが「相当でない」と誰もが納得するまでの理由は、思いつきません。

仮に、会社が説明した「社外取締役を置くことが相当でない理由」が、「相当」(=妥当)でないとしても、それによって、総会での議決等が無効、取消ということになるわけではありません。しかし、会社のガバナンスに関わる点について、投資家等の厳しい目にはさらされることに意義はあると思います。

母親の言い付けを守らないで、くどくど言い訳する子どものように思われるくらいなら、社外取締役を選任した方が賢明で、法案成立に備え、今からその準備をすることをお勧めします。(N)